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医療

2023年5月24日 (水)

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群という疾患があります。慢性的に便秘や下痢を繰り返すも、内視鏡や血液検査などをしても異常を指摘できない疾患群です(今の現代医学で解明されていないだけでもっと違う病態があるのかも知れませんが・・)。

多くの方もストレスでお腹が痛くなったり、トイレに行きたくなった経験はしたことがあるかも知れません。

私達の胃や腸(小腸、大腸)の運動は私達が意識的には調節出来ない自律神経がコントロールしています。この胃腸をコントロールする働きに異常が起こると、便秘や下痢などの排便異常、腸蠕動異常による腹痛、嘔気などが出現します。

 

Th_hl12_08この様な病態は日本人では10%程度の方に認められるそうで、頻度が高いのは20〜40代に多く、男女比では2:3でやや女性に多く認められます。男性では下痢型が多く、女性では便秘型が目立ちます。

過敏性腸炎のタイプは①下痢型、②便秘型、③交代型に分かれます。下痢型は突然起こる下痢が特徴です。そのために通勤や通学、あるいは仕事上で支障が出ます。便秘型は腸の蠕動がスムーズに行かずに便が停滞します。コロコロした硬い便となり排便が困難になったりします。交代型は下痢型と便秘型が交互に繰り返します。

潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患や、食中毒や感染症では下痢などが起こりますし、腸の動きの弱い女性では便秘になったりします。 過敏性腸炎の便秘は一般的な便秘と違い、腹痛や腹部不快感を伴い、時に強く、また排便後は症状が軽快します。一般的に食事によって症状が誘発されるも、睡眠中は余り症状がないと言う特徴があります。

 

「腸は第二の脳」と書いてある文献もあります。以前は胃腸の動きは自律神経が担っていますので、私達の意志(脳)とは関係ないと思われていました。しかし今では脳と胃腸は自律神経やホルモンなどを介してお互いに関連しあって調整する仕組みが次第にわかってきています。「脳腸相関」と言われているメカニズムが少しずつ解明されるようになっています。

解り易い例から説明しますと、お腹が減ると食事がいつ入って来ても大丈夫のように胃腸は活発に動く準備をしています。その時に胃が「ぐ〜」となったりします。胃腸から出されるホルモンや血糖などの推移を感じ取って脳は「腹が減った〜」と私達に信号を送っています。

下痢や便秘などを繰り返しても内視鏡や検査をしても異常が見つからない過敏性腸症候群は脳が感じ取るストレスとの関連が重要と言われています。色々なストレスを受けて胃腸の自律神経に乱れがおこり、胃腸の運動障害が起こっているのです。自律神経が乱れることで頭痛や疲労感、抑うつ気分などの胃腸以外の症状も出てきたりします。Th_img_4243

過敏性腸症候群は胃腸症状が主ですが、その原因にストレスなどの心的要因も多いため、胃腸科のみならず心療内科や精神科とも相談して治療を進める必要もあるのです。

脳腸相関と言う難しいメカニズムは解らなくても、昔から日本人は精神的なことが胃腸に来ることは皆判っていたのですね。日本語で怒っていることを「腹が立つ」「はらわたが煮えくりかえる」とか「腹の虫が治まらない」などと使用し、感情と胃腸が繋がっていると解っていたのでしょうね。 今でこそ、感情の動きは脳の動くによることが分かったのですが、昔は心は胸(心臓)や腹部にあると考えていたのでしょう。心穏やかにして(お腹を穏やかにして)先人達の知恵をもう一度学ぶ必要があるのかも知れません。

 

2023年5月10日 (水)

5月病について

今日のFM放送「いきいきタイム」は5月の連休明けですので、毎年のように5月病についてお話をしました。 
5月病は正式な医学用語ではなく、精神科の先生の中でも若干違うニアンスで捉えているようです。 一般的には適応障害(アバシーシンドローム:無気力症候群)や軽度あるいは双極性のうつ状態と言うことになりそうです。

5月病は元々、受験勉強を勝ち抜き希望を持って大学に入学した学生が、新しい学校になじめず、ゴールデンウィーク明けから気持ちが落ち込む症状を示し ていました。 学生だけではなく、新しい職場になじめない新入社員などにも同様な症状があり、仕事が本格的になる6月頃に起こりやすいといわれています。

5月病は新しい環境や生活に適応できずに、「何とかしなくては」と焦りと頑張りが空回りし、一時的に強いストレス状態に陥っていると考えられています。 厳しい受験勉強や入社試験を乗り越えて希望で胸一 杯なはずなのに、新しい教室や職場、人間関係に馴染めない・・・この様なことは多くの方が経験することだと思います。 うつ病ではなくて一種の通過儀礼だと思って見守る必要もあるかも知れません。

理想と現実のギャップがでてきて、 精神的なストレスが重なり、食欲不振、睡眠障害、動悸、無気力や鬱症状など体や心に変調をきたします。
5月病は性格的に真面目で几帳面、完全主義、内気で孤立しやすい人がなりやすいといわれています。
本来そのような方は、悪い性格の持ち主ではなく、学校や職場でこれを乗り超えると素晴らしい人間に成長することも多いのだと思うのです。

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5月病になるようなら誉めてあげたいぐらいです。「頑張れ」ではなくて「頑張りすぎたので少し休みなさい」と声をかける程度が良いと思います。

新しい環境で頑張った人がゴールデンウィークなどで長めの休暇を貰った時に症状が出やすいようです。 長期の休みを貰った時の睡眠時間、特に起床時間に注意が必要と言われています。 休みは朝寝坊したくなると思いますが、それでも日頃の起床時間の2時間程度に止めるべきのようです。 休みだからといって昼過ぎまで寝てしまうと体内時計もくるってしまい、体調を崩す原因となります。 肉体的にも連休明けに会社や学校に行くことが辛くなります。

最近は5月病対策をとっている大学や企業も増えてきているようです。

ストレスや疲労を感じたら一人で悩まず家族や友人、または専門医に相談(カウンセリング、精神療法など)してグチを聞いてもらいましょう。
また、症状が進んで、不安、焦燥、うつ状態などが強い場合には、専門医(心療内科、精神科など)を受診してみましょう。一時的に抗うつ薬、抗不安薬を使うことも有効です。適量の薬で、はやく症状が改善することもあります。

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現代社会でストレスのない場所は恐らくないと思います。 心や体の不調は、我慢しないで治すことを優先することが大切です。 疲れを感じたらしっかりと体を休める、ストレスを発散するために旅行、趣味などでゆったりとした時間を過ごすなど気分転換をはかる必要があります。

2023年5月 3日 (水)

健康診断と放射線

現代の医療において放射線診断は欠かすことが出来ない検査となっています。骨折や心筋梗塞、脳卒中など診断だけでなく癌の治療などにも使われています。今日のFM放送「いきいきタイム」は放射線被曝についてお話をしました。以前も書きましたが再投稿となります。

放射線被曝と聞くと日本では医療被曝や原爆による被害を思い浮かべるかも知れません。医療利用に関しては「効果や有効性があるだけでなく安全性が担保されなければ利用することが出来ない」と言う大原則があります。

薬もそうですが、副作用がない薬はありません。しかしながら様々のデーターをもとに「効果>>副作用」が判明したのが医療薬として認められています。今回のテーマの放射線も被曝というデメリットがありますが、診断や治療に有効というメリットが高い場合に使用が出来るのです。

日本はヨーロッパ諸国と比べてCTの普及率と使用率が高く、医療被曝によるがんの発生が多いのではないかと指摘が以前からありました(最近のデーター(何処で読んだかはっきりしませんが🙏)では米国では1台のCTの稼働率が高く、人口比で言うと米国のCT利用率が高いとのこと)。

・・・では日本人の放射線検査(治療を含めて)でがんが増えたかどうか?・・・結論から言うと「そうではない」ようです。

では、<実際の医療における放射線被曝量は>どれぐらいかと言うと、

①撮影の条件によっても、多少異なりますが、胸のレントゲン撮影では、0.05mSV。胃のバリウム検査では、2.0mSV。頭部のCTでは0.5mSV、胸部のCTでも3.0mSVといったところです。(mSV:ミリーシーベルト:放射線の量の値です)

・・・これまでの原爆による影響や原発事故或いは放射線装置のソフトのミスによる医療事後(米国)などから、人体に対する影響が分かっています。

②人体に影響が出る放射線量は、年間200mSVまでは人体に影響がない値となっています。私達のように放射線検査や治療を行う医療従事者は毎月放射線測定パッチを着けて毎月の放射線被曝量を測定し、年に2回の採血や視力検査、皮膚の状態などが法律で義務づけられて行っています。

放射線に携わる医師や放射線技師、看護師などの職業人などの年間被曝線量は安全の確保からも上限が50mSVまでと定められています。

②のことを頭に入れて①の検査時の放射線量を考えると、一般の方が受ける検査での放射線の危険度は高くないと言える訳です。だからといって不必要な検査を受けるべきではありません。

 

<自然界から受ける放射線量>

・・・外来にて、以前結核を患ったことのある患者さんに、ここ2〜3年胸部レントゲン(被曝線量は0.05mSV)を撮っていませんので(結核後のことやがん発生のことを念頭に)レントゲンを撮りましょうかと説明したところ「被爆したくないのでいいですと」答えられました。時々過度に放射線を怖がる方がいますが、私達は実は周りから年間約3mSVの放射能を浴びています。これは防ぎようがありません。

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胸部レントゲンの被爆が怖くて検査を拒否した方は、実は胸部レントゲンを年間60回撮影をしたのと同じ量を自然界から受けているのです。

私達は何もしなくても年間3.0ミリシーベルトを自然界から受けています。これが多いか少ないかは医療被曝の量と照らしあわせて下さい。 自然放射線による被爆についてどこから放射線を受けているかを今回は主に記載したいと思います。

(1) まず 宇宙より放射線が飛んできます。

 地球には、常にいろいろな放射線が宇宙より降り注いでいます。宇宙線は、海抜高度によって変化します。だいたい,1500m上昇するごとに約2倍になると言われています。

(2)続いて 大地より

 大地からの放射線の源は,地球内部に含まれる放射性の核種です.それらは約45億年前につくられ,大地に含まれるウラン、トリウム、カリウム40(K)などの自然の放射性同位元素です.

(3)そしてもう一つ 「食物より」

 飲料水中に含まれる自然放射能には、ウラン、トリウムなどでこれらは非常に微量ながら存在します。食事と水をとっている限り体内被曝を浴びていることになります。

(1)、(2)、(3)のように自然界から受けて来た放射線量は人類発生時から受け続けていて現在があるわけです。毎年自然界から放射線を3mSVを受け続けて人類は進化したのです。

無駄なレントゲン検査を受ける必要はありませんが、過度に不安がる必要もありません。専門家ではありませんが、皆様も心配しないで、検診を受けていただいて、水もお食事も普通にお取りになって下さいね😊

事後以外では制御可能な医療被曝と違い、原発事後や原爆の影響は制御不可能でその影響は半永久的に続く事もあり得るのです。人類が使用する放射線は人類史か制御することも出来ません。放射線を賢く利用出来るがどうかは人間の心の問題なのかも知れません。

2023年4月26日 (水)

健康長寿を目指すには

日本人の平均寿命は年々延びています。それは非常に良いことですが、晩年まで健康でいられるかどうかで人生が大きく変わるのも確かです。

いわゆる健康寿命と平均寿命との差が長いほど、不健康な状態で過ごす期間が長いこととなります。健康寿命とは健康で日常的に「介護を必要としない」で「自立した生活ができる」生存期間のことで、日本人の健康寿命は男性72.68歳、女性で75.38歳となっています。対して平均寿命は男性で81.41歳、女性で 87.45歳です(いずれも厚生労働省「2019年(令和元年)簡易生命表」より)・・・・と言うことは、男性で8.7年、女性で12年余り不健康で晩年を過ごすことになるのです。Th_健康寿命を阻害する大きな要因として、内臓脂肪症候群・運動器症候群・認知症が上げられています。
日本で介護保険制度が出来て、その中で要介護や要支援の原因をみていくことで、これらを改善する必要があることも見えて来ます。

(2019年度厚生労働省国民生活基礎調査より)要介護の要因;認知症(24%)、 脳卒中(19%)、転倒・骨折(13%)、 老衰(13%)
要支援の原因;認知症(17%)、脳卒中(16%)、高齢による衰弱(13%)、転倒・骨折(11%)、心臓病(7%)

 

これから見ても要介護や要支援の原因となるのが、動脈硬化を基礎とする生活習慣病、認知症の他に、骨・関節・筋肉などの運動器の働きが衰えることによることが原因と判ると思います。

私の外科の範囲ではありませんが、整形外科学会では運動器の障害による移動機能の低下した状態を「運動器症候群:ロコモティブシンドローム」と定義し、健康寿命促進のためにロコモ対策として運動指導などを推奨しています。

今回はメタボリック対策や認知症は有名ですが、この運動器症候群も健康長寿には重要であることを説明しました。

厚生労働省も「健康長寿プラン」を作成して国民に呼びかけています。(→厚生労働省「健康長寿プラン」

2023年4月12日 (水)

急性アルコール中毒

4月12日になりました。新しい職場で少しなれてきましたでしょうか?

今年はコロナによる行動制限も殆どなくなり、多くの職場や大学などの歓迎会など飲み会が復活すると思います。ただこの時期に心配になるのが急性アルコール中毒です。急性アルコール中毒は「アルコール飲料の摂取により生体が精神的・身体的影響を受け、主として一過性に意識障害を生じるものであり、通常は酩酊と称されるものである」と定義されます。

急性アルコール中毒になると、意識レベルが低下し、嘔吐、呼吸状態が悪化するなど危険な状態に陥ります。若年者・女性・高齢者などでリスクが高く、とくに大学生や新社会人ではこの時期や忘年会シーズンで一気飲みとして飲酒させられ、死亡に至るケースが毎年発生しています。

日本において、コロナ禍での統計はまだ集計されなかったり、明らかに飲み会なども少なかったために、急性アルコール中毒の死亡者数は統計に載ってきていません。コロナ以前では年間で1〜7人以上の若者が急性アルコール中毒で亡くなっています。折角、希望に満ちた若者をアルコールで失いたくはないものです。飲んで楽しむことはよいことでしょうが、どうか「一気飲み」だけは避けましょう。

コロナ以前は東京消防庁管内で1年間に男性が9900人、女性が5500人の合計15400にもの方々が急性アルコール中毒により緊急搬送されています。 今年はこのような状況も復活するのかも知れません。 皆で注意したいものです。

ここで「アルコールの作用」についてお話します。アルコールは少量なら気持ちをリラックスさせたり会話を増やしたりする効果があります。少量のアルコールが循環器疾患の予防になったりHDL(善玉)コレステロールを増加させたりの利点もあります。まさに酒飲みからすれば「百薬の長」となり、飲めるよりどころとなっています。

アルコールは分子が小さいので、脳にも入り込み、脳を麻痺させます。脳が麻痺することにより身体に変化が起きた状態が「酔い」です。お酒は脳を麻痺させるのです。 

酔いの状態は、血液の中のアルコール濃度により違います。アルコールの分解能は遺伝によって決定されます、後天的に強くなるのはありません。 脳の麻痺も①大脳皮質(私達の感情・思考・記憶を司る)、②小脳(平衡感覚)、次に③延髄(呼吸・心拍・体温)の順で一般的に進みます。

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ふだん脳は、必要に応じてブレーキをかけ、その人の言動を適度にコントロールしています。「歯止めが効く」のは、大脳がきちんと働いているからなんですね

でもお酒を飲んで①大脳が酔っぱらうと、人によってはそのブレーキが効かなくなります。普段考えられないようなことを言い出したり、必要以上にハイテンションになったりするのです。本人にとっては楽しい時期です。

次いで②小脳が麻痺してくると、運動・平行感覚の障害が起こります。千鳥足になりますが、足が麻痺するのではなく、平衡感覚を司る小脳が麻痺するのです。めまいや嘔吐も起こってきます。 

最終的に③延髄まで麻痺が来ると呼吸停止、心停止、低体温などが起こり場合によっては命を落とすことになります。

今回の説明は少々乱暴ですが、分かりやすいくすために書きました。

お酒は「百薬の長」と言われます。脳にとっても決してお酒は悪者ではありません。大切なのは(これが一番難しいのですが)“ほどほどに飲む”ということです。

2023年4月 5日 (水)

間歇性跛行について(ASOと脊柱管狭窄症について)

今日のFMレキオは間歇性跛行(かんけつせいはこう)について話をしました。以前ブログに書いたのですが追加しながらまとめてみようと思います。

間歇(かんけつ)とは一定の時間をおいて、物事か起こったり止んだりすることを示します。よく温泉地帯で一定の間隔をおいて蒸気が飛び上がるのを「間歇泉」などと呼んでいますが、この字と同じです。

跛行(はこう)とは足を引きずって歩くという意味です。間歇性跛行とは歩き始めは普通に歩けるのですが、しばらく(一定の距離を)歩くと足が痛くなったり重くなったり、しびれや冷えが出現し歩けなくなってしまい、休憩するとまた歩ける状態を呼んでいます。

この症状を起こす二大原因として、動脈硬化が足の血管で起こる閉塞性動脈硬化症(ASO)と腰の神経が通る脊柱管という神経の通り道が狭くなる脊柱管狭窄症があります。閉塞性動脈硬化症は外科、特に血管外科で扱いますし、腰部脊柱管狭窄症は主に整形外科で扱う疾患になります。

特に寒くなるこの時期は、足が冷える、しびれる、ある程度歩くと足が痛くなる等の症状を訴える方が増えます。

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解りやすいように左にシェーマを書いてみました(クリックするといつものように大きくなります)。閉塞性動脈硬化症では動脈硬化により血液の流れが悪くなるため、その領域の酸素不足が生じます。 運動すると筋肉の酸素消費量が増えるのですが、血管が細いと必要量の血液が流れず酸欠状態となり痛みを感じてしまいます。そこで休むと筋肉も次第に必要な分の酸素の供給が満たされ、また歩き出すことが出来るようになります。

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同じ症状が起こるのが脊柱管狭窄です。しかし血管の病気ではありません。背骨の中の神経が通る場所(脊柱管)が元来狭かったり、圧迫骨折やヘルニアで神経が圧迫されるのが脊柱管狭窄です。歩行時には、脊柱管の中を通る神経に血液を送り込む血管も圧迫され、次第にこの神経を介して痛みがきます。横から人間の体を見ると背中の骨はS字に曲がり特に腰の骨は前方に傾斜しています。真っ直ぐな姿勢や逆の背屈の姿勢では神経が圧迫されやすくなり、症状が悪化します。

ASOは姿勢で変化はしませんが、脊柱管狭窄の場合は前屈で神経の圧迫が少なくなり楽となります。これを利用してこの2つの疾患をある程度見分けることが出来ます。平地歩行はきついけど自転車(体が前屈みとなりますので)なら何処までもいけるのなら脊柱管狭窄症です。一般的には平地歩行より坂道の上りがきつく、下りは楽なことが殆どです。ASOは登りでより早くきつくなります。しかし脊柱管狭窄では登りは前屈姿勢となりますので普通の人と変わりなく、楽になるはずの下りで(後屈姿勢となるため)きつくなるのが特徴です。

年をとったから長い時間歩けなくなったと感じている方に、実際は年齢のせいではなく病気のせいで歩きづらくなっただけの方もよく見かけます。 診断がついて治療をすると元のように長い距離を歩ける方もいますので、生活の質が向上します。 

もしも間歇跛行の症状があって、姿勢で変化があれば整形外科を受診され、自転車をこいでもきつくなるようなら血管外科を選択されたらよいかも知れません。

2023年3月22日 (水)

春先は体調管理に気をつけよう(咳喘息)

今日のFMは春の季節に変化による体調不良について話をしました。春の季節を表す言葉として、代表的なものに、「三寒四温」という言葉があります。この言葉よりも早く温度や湿度の変化が起こることもしばしばです。人間の身体は四季の変化に合わせて体調をコントロールしています。これを行う中心となるのが自律神経ですが、気温がコロコロと変わると春先は自律神経に負荷がかかり、自律神経失調状態となりやすくなります
自律神経失調の症状としては慢性的な疲労、だるさ、めまい、偏頭痛、動悸、ほてり、不眠、便秘、 下痢、微熱、耳鳴り、手足のしびれ、口やのどの不快感、頻尿、残尿感、精神的にはイライラ、不安感、疎外感、落ち込み、やる気が出ない、ゆううつになる、感情の起伏が激しい、あせりを感じるなど様々な症状が出て来ます。春は冬が終わり楽しい反面、体調管理が難しい時期でもあるのです。皆様方も無理をしないで下さいね。

春先のもう1つに呼吸器の症状がよく出る季節ともなります。杉花粉症もその1つでしょうが、その他の花粉やPM2.5なども偏西風に乗ってやって来ます。風邪症状がでやすい時期ともなります。FM放送の中で、咳が長引く咳喘息についても話をしましたので、以前ブログで書いたブログでは「咳喘息」について再度記載しておきます。   Th_                      
冬から初春にかけて体調を崩す方の中で、風邪や気管支炎になる方も多くいらっしゃいます、新型コロナウイルスもまだまだ流行っています。多くのウイルスや細菌による上気道炎・気管支炎は2週間程度では改善します。2週間以上咳が続く場合は、普通の風邪以外を考えて病院を受診した方が良い場合もあります。
肺がん、肺炎、心不全などの重篤な疾患以外に、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患COPDの悪化によるものもあります。            
・気管支喘息は一般的にはアレルギー反応にともなう気管支の慢性炎症により、気管の狭窄や痰詰まりがおこり、ゼイゼイ・ヒュージューなどの呼吸困難が起こってきます。アレルギーを主体とする病態ですので、ステロイドなどの吸入が基本の治療となります。
・しかしながら、元々は喘息がない方が、風邪をひいた後に、なかなか咳が治らずに続く方が最近多くなっています。 熱もないし、どうにか働ける為に病院にも行かずに我慢している方が多くいらっしゃいます。 ただ咳喘息は気管支喘息の1歩手前の病態で、放置することで3人に1人が気管支喘息に移行すると言われていますので、移行を食い止める必要があります。
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・咳喘息はウイルスや細菌などが原因で気管に炎症が起こり、そのために気道の過敏性が増加して、咳き込みが治らなくなってしまう病態です。 

気道の過敏性が上昇することで、これまでには経験したことがない条件でも咳が誘発される様になります。 例えば、掃除をしたりホコリの多い室内だけでなく、冷たい空気に触れたり、香り、花粉、湯気などに接しただけで、咳き込んでしまうようになります。
・これまで喘息と言われたことがない方が長引く咳の場合はこの咳喘息に注意が必要になります。
咳喘息を疑う咳の特徴として、熱はないこと。そして「天気によって咳がひどくなる」 「夜間(寝入りばなや深夜、早朝に咳が出る」 「冷たい空気に触れたり、湯気が出る場所、エアコンなどの気流に接すると咳が出る」 「会話中や会議などで咳が出て、止まらなくなる」 「咳がいったん出るとなかなか止まらないも、出ない時には暫くでない場合もある」 「運動すると咳がでる」 「普段より息苦しい感じもあり、ゼイゼイやヒューヒューすることもある」・・・・・・
この様なことが2週以上続いたら、咳喘息の可能性がありますので、呼吸器内科などを受診された方が良いと考えています。

2023年3月 1日 (水)

年齢と共に身長は縮まる

中年以降の多くの皆様方は若かりし頃と比べたら身長が縮んだと感じていると思います・・・・如何でしょう、実は皆縮みます😅 もちろん病気でなくてもほぼ全ての方で年齢と共に背が縮みます・・・また夢も希望もないことを書いてと非難されそうですが・・・🙇 生理的にみな背が縮むのですが、それ意外で身長が縮む原因もあるのでこれは注意しておく必要があります。

もの凄くざっくばらんに原因を書くと①年齢と共に身体の水分の比率が低下するため ②骨粗鬆症などのために起こる圧迫骨折 ③筋力低下などの原因による姿勢の悪化に伴うものがあります④その他(きっと沢山あるはずですが・・)。

その謎は、背骨に隠されています。「身長が縮む」を「背が縮む」というのは言い得て妙です。

私たちの背骨は椎骨という小さな骨が煉瓦状に積み重なって構成されています。上から順に7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎の24個の椎骨とその下に仙骨と尾骨があります。

背骨には、椎間板というゼリー状の軟骨組織が存在し、骨と骨の間にあってクッション材として存在します。そのため椎間板の数は23個となります。 加齢とともに髄核(椎間板の中心部分)の水分含有率が減少します。小児期で約88%あった水分含有率が老年期で66%に減少するといわれています。**1番身長が高い状態の20歳 前後の椎間板の水分量の文献を探すことが出来ませんでした(体全体の水分量は大凡、子どもで体重の70%、成人体重ので60%、老人で体重の50%です) **

単純に考えると特に損傷もない椎間板でも老年期になると若者とくれべて20~25%も水分量が減る計算になります。加齢と共に1つ1つの椎間板の厚さが3/4になると言うことです。実際の平均的な椎間板は椎間板の形状は、平均して厚さが約7mm、直径3cmの楕円形でです。それぞれが1mm減ると全体で2.3Cm縮みますし、2mmなら4.6Cm身長が縮むことになるのです。

→単純に椎間板の加齢に伴う水分減少でも3〜5Cm体重が縮むことがあるのです。 どんなに予防しても加齢と共に身長は縮むのです。

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また椎間板は血管が内部に存在しないため、損傷するときわめて修復・再生しにくい組織ですので、ヘルニアなどが起こると更に椎間板の厚さも縮小します

 

これは生理的な変化ですので、私たちが出来るのは ②骨粗鬆症などのために起こる圧迫骨折 ③筋力低下などの原因による姿勢の悪化 などを予防することになります。 これらについては別途、ネットなどを参考に取り組んで下さいね。

 

2023年2月 8日 (水)

脳梗塞の病態と予防(再投稿)

(医療ブログは時間がないので更新する予定はないのですが、医療ブログも放送日に合わせて再投稿して欲しいとの要望がありました。今後は時々同じ内容ですがアップしたいと思います。統計などは新しく書き直しておきます)

今日のFM放送は脳卒中について話をしました。日本循環器学会の2019年の統計の発表によると年間27万人が新規または再発の脳卒中を発症して、病院搬送後、退院までに12万人(44%)の方が亡くなっているとのことです。現在の死亡原因の第4位となっています。介護が必要となった患者さんは46%に及び、寝たきりの一番の原因となっています。

日本では昭和25年から昭和55年までは脳血管疾患(脳卒中)が死因トップでした。 脳出血も脳梗塞も高血圧と関連が深く、国民運動として減塩に取り組んだことも功を奏していますが、やはり早期診断、早期治療が可能になったために、脳卒中による死因は減少し現在では第4位となっています。2021年の厚生労働省「人口動態統計」によると、死因別死亡率はがん、心疾患、老衰に次ぐ第4位となっています。

ただし降圧剤の普及や栄養状態の改善で脳出血は減少傾向にありますが、生活習慣の欧米化に伴い脳梗塞は増加の一途を辿っていて、全体とては発症は増えているのです。現在では脳卒中のなかで後者が約7割を占めています。

重要な点は死亡率が第4位に低下したから脳卒中が減少した訳ではないと言うことです。検査や治療法などが進んだために、死亡者数は減るもその後の後遺症の方は増えていると言うことです。安心は出来ることではありません。


増え続ける脳梗塞に対して今後ともメタボ対策、不整脈対策などが重要となります。

脳卒中にも異なる3つの病態に分かれることを以前に書きましたが、その部分を再度記載しておきます(日本では脳卒中のうち、脳梗塞が64%、脳出血が25%、クモ膜下出血が9%)。

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これまで特に何もなかった人が、急に倒れて意識がなくなったり、半身に麻痺が起こったり、呂律が回らなくなるようなことを、先人達の多くの方が経験してきた訳です。 当然以前はこれが脳の中の出血や梗塞で起きたことなど分かりませんでした。

この様な病態も見て、昔の方は「脳卒中」と名付けました。「脳」は名前の通り脳みそ(脳実質)のことで、「卒」は「にわかに」という意味です。また「中」は命中とか適中などと同じ意味で「あたる」とのことになります。

ですから、今まで一緒に過ごしていた方が急に麻痺や意識消失を起こしたため「脳がにわかに(邪気に)あたった病気」として捉えたのです。

医学の進歩する以前は、それこそ悪霊が取り付いたとして、邪気を払うために荒治療や拷問に近いようなことも行われたと記録には残っているそうです。

やっとルネサンス期になり、解剖が行われるなかで、同じ様な脳卒中を起こす病態(症状が似ていいる場合)でも、血管が破けた場合と血管が詰まって起こる場合もあるのが判ってきました。 更に脳の出血でも脳実質の中に出血する場合(脳出血)とくも膜下のスペースに出血する場合(くも膜下出血)があること、脳の血管が詰まる場合にも血管そのものが動脈硬化が強くなり血管が狭くなっている場合(アテローム性脳梗塞)と心臓でできた血の塊(塞栓物質)が飛んできた脳の血管を詰まらせて起こる場合(脳塞栓症:心原性脳塞栓症)も分かるようになりました。

現代のように画像器機が進歩するまで、死んだ後に解剖で判って来たことで、治療には簡単には結び付きませんでした。 出血と梗塞では同じ様な症状でも治療は全く異なることになります。

単純にいえば、出血していれば血を固めて出血を止めたいですし、詰まっているのであれば血をさらさらにして固まらないようにしないといけません。 もしもこの病態と逆の治療をすれば、何もしないより更に悪化させることになります。

脳卒中の治療に福音をもたらしたのは、頭部CTの開発で、その後MRIなどの医療器機も開発されました。それらのお陰で、硬い頭蓋骨の中で起こった病態を短時間に把握出来て、早期治療が可能となったのです。

私達にできることは、いつも言われているメタボ対策、不整脈などの循環器疾患、脳ドックなどでの動脈瘤の有無などのチェックでしょうか。 寒い時に脱衣所が寒い場合などはヒートショックを起こしますので、周りの環境の対策も重要ですね(→前回のヒートショックについて)。

2023年1月25日 (水)

寒い冬は浴槽内での溺死に注意

今日は全国各地でこの冬1番の寒気が流れ込んで交通網が遮断されたり被害が出ているようです。今日のFM放送はこの寒さのために急遽話題を変えて、寒い時期に起こる病気について話をしました。 新型コロナウイルス感染症がどのようになるのかも心配ですが、冬の時期の病気と言えば、まず思い浮かべるのはインフルエンザやノロウイルスなどのウイルス感染症だったおもいます。そして寒いために血圧の変動も強くなるため、脳卒中や虚血性心疾患、寒さのため厚着や雪などでの転倒・骨折も増える時期となります。

 

Th_704705最近ではマスコミでも取り上げらるようになった「ヒートショック」があります。水に溺れて死んでしまう状態を溺死と呼んでいます。何となく夏の海水浴シーズンにみられると思いがちですが、実は溺死は冬場に多いのです。

2020年の統計では交通事故による死亡者は過去最低の年間3000人を切るようになったのですが、入浴中の死亡事故は年間6900人と言われ、交通事故死よりもずっと多く、その中で4900人溺死と言われてもいます・・・少しビックリではないでしょうか? 家庭の風呂場で溺れて死亡した人数は交通事故死亡者数より多くなっているのです。

 

寒さは私達の体に刺激を与え、交感神経が緊張状態となります。急に寒い場所に出たときなどは血圧が30から50mmHgも上昇すると言われています。例えば普段から150/90と血圧が高い方が寒さの刺激を受けると、急に180から200まで最高血圧が上がることになります。それにより、心筋梗塞や脳卒中が増えると言われています。

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寒いとやはり暑い湯に浸かりたいと思うでしょう。ここにも落とし穴があります。寒い寒いと思いながら脱衣所で服を脱ぎます(血圧が一気に上がります)。 今度は熱い湯の中に入り込みます(すると急激に血管が拡張し、血圧が一気に低下します)。湯船に浸かりながれ急激な血圧の上昇、低下で意識がなくなる方もいます。 お風呂場は家族でも目に付かないところです。 湯船に入り意識を失い、湯の中で溺死しても誰も気づきません。 家族がお風呂から上がってくるのが遅いと風呂場に行ったら、水の中の沈んでいたということも多いのです。

このような血圧の変動を最小限にするためには、脱衣所の温度を18度から24度程度まで上げておくことが必要です。湯に入る前にかけ湯をして暑い温度にならしながら、湯船に入る、出るときもゆっくりを腰掛けたあとに出るなどの工夫が必要かもしれません(ヒートショックが起こり易い温度差は10度以上となっていますので、少なくとも通常の室内と脱衣所の温度差を10度以下、そして風呂場の温度とお湯の温度差も10度以下に保つ様にした方が良いかも・・正確なデータがありませんが🙏)。

家庭風呂での死亡者の90%は65歳以上が占めていますので、基礎疾患に加えて、高齢やはこの様な温度差に気をつけながら対策を練る必要があると考えています。ただし20代でも死亡例がありますので若くても気をつける様にして下さいね。

早く今回の寒波が過ぎることを祈っています。各地で被害がありませんように。

 

追伸:次第に時間が取れなくなってきましたので、ブログの中の「医療記事」はしばらく(永久に?)に中断したいと思います。旅行の記事は私の老後の楽しみのため書き続ける予定です。

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