2026年6月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

最近のトラックバック

無料ブログはココログ

医療

2026年6月10日 (水)

「貧血」とはどんな状態?

〜めまいや立ちくらみだけではない、身体からのサイン〜

沖縄地方も梅雨が明け、いよいよ夏本番を迎えました。今年は梅雨入りが遅く、しかも梅雨明けは例年よりかなり早かった印象があります。最近は「これまでの沖縄らしさ」が少しずつ変わってきたように感じることも増えてきました。夏場の水不足も少し気になるところです。

さて、今回は「貧血」についてお話ししたいと思います。

外来で患者さんと話していると、「先生、今朝ちょっと貧血になってね〜」という言葉をよく耳にします。実際には、一時的な低血圧や立ちくらみ、軽い気分不良を指していることも多いのですが、「貧血」という言葉は日常の中でかなり広い意味で使われているようです。

では、本当の意味での「貧血」とは何なのでしょうか。

私たちの血液は、「赤血球」「白血球」「血小板」といった形のある成分と、「血漿(けっしょう)」という液体成分からできています。その中で、貧血と深く関係しているのが赤血球です。

赤血球は、肺で取り込んだ酸素を全身へ運ぶ役割をしています。赤血球の中には「ヘモグロビン」という赤い色素が含まれており、このヘモグロビンが酸素と結びつくことで、私たちは全身の細胞へ酸素を届けることができます。

人間の身体にはおよそ20兆個もの赤血球が存在すると言われています。私たちの細胞は酸素がなければ生きていけません。そのため赤血球は、体中の細胞に酸素を届けるために、非常に小さく、効率的な細胞へと進化してきたのです。

貧血とは、この赤血球やヘモグロビンが減少し、身体が酸素不足になった状態をいいます。

Th__20260511113601

特に女性では、生理による出血の影響もあり、鉄欠乏性貧血が非常に多くみられます。さらに、ダイエットや偏った食事、朝食抜きなどが重なることで、鉄不足になりやすい傾向があります。

「最近、顔色が白くなったね」と言われても、単純に美白ではなく、貧血が隠れている場合もあります。

貧血の症状としては、

・疲れやすい
・だるい
・めまい、立ちくらみ
・動悸、息切れ
・頭痛、肩こり
・顔色が悪い
・冷えやすい
・爪が割れやすい
・髪が抜けやすい
・口の端が切れる
・舌がツルツルする

など、実にさまざまです。

また、「煎餅のような硬いものを無性に食べたくなる」という症状が出る方もいます。

ただし、こうした症状は他の病気でも起こります。そのため、「私は貧血体質だから」と自己判断してしまうのは危険です。

特に注意が必要なのは、「鉄不足だけ」が原因ではない場合です。

例えば、子宮筋腫などによる慢性的な出血、胃潰瘍、胃がん、大腸がんなどが隠れていることもあります。実際に、貧血の検査をきっかけに重大な病気が見つかるケースは少なくありません。

また、赤血球を作る骨髄の病気や、赤血球が壊れやすくなる病気など、専門的な治療が必要な貧血もあります。

ですから、「たかが貧血」と軽く考えず、一度は原因をしっかり調べることが大切なのです。

ここで、よく混同される「低血圧」との違いについても触れておきます。

「朝弱いから貧血」「立ちくらみしたから貧血」と考える方は多いのですが、実は貧血と低血圧は別のものです。

貧血は、赤血球やヘモグロビンが減り、酸素を運ぶ能力が低下した状態です。

一方、低血圧は、血液を送り出す圧力が低い状態です。

どちらも「めまい」や「ふらつき」が起こるため混同されやすいのですが、原因も治療法も異なります。

最後に、鉄欠乏性貧血の予防についてです。

Th__20260511113602

鉄は、レバー、赤身の肉、魚、あさり、大豆製品、緑黄色野菜などに多く含まれています。また、ビタミンCやタンパク質を一緒に摂ることで、鉄の吸収が良くなります。

忙しい毎日の中では、つい食事が偏ってしまうこともあります。しかし、私たちの身体は、毎日の食事によって支えられています。

「最近疲れやすいな」「なんとなく調子が悪いな」と感じた時、その背景に貧血が隠れていることもあります。

貧血は、身体からの小さなサインなのかもしれません。

気になる症状がある時は、一度血液検査を受けてみることをお勧めします。早めに原因を知ることが、自分自身の身体を守る第一歩になると思います。

2026年6月 3日 (水)

大腸の機能とポリープからがんができる仕組み

ひさしぶるに那覇を直撃した台風6号の影響で6月1日は終日休診となりましたが、2日からは通常通りとなりホットしました。今後は本土の方の影響が心配です。被害が出ませんように。

さて、今回のテーマは「大腸がん」です。

現在、日本人の死亡原因の第1位は「がん」です。そして、その中でも大腸がんは、私たちにとって非常に身近ながんとなっています。

2020年のデータでは、日本人男性の62.1%、女性の48.9%が生涯のうちに一度はがんにかかるとされています。つまり、男性では約6割、女性でも約半数が「がんになる時代」ということです。

さらに女性のがん死亡原因では大腸がんが第1位、男性でも肺がんに次いで第2位となっています。これほど多い病気でありながら、大腸内視鏡検査を受けたことがない方がまだ多いのも現実です。

大腸は約1.8メートルほどの長さがあり、小腸から流れてきた水分の多い内容物から水分を吸収し、形のある便を作る働きをしています。大腸がんは、その内側を覆う「粘膜」から発生します。

大腸がんの多くは、「ポリープ」と呼ばれる小さな隆起から発生します。特に「腺腫性ポリープ」は、時間をかけてがん化することがあります。

ポリープは小さいうちに切除すれば、多くの場合は内視鏡だけで治療が終了します。例えば数ミリ程度の小さなポリープであれば、がん化率は極めて低く、仮にがんになっていても粘膜内に留まっていることがほとんどです。

しかし、ポリープが大きくなるにつれて、がん化率は上昇します。3センチを超える頃には進行がんの割合も増えてきます。

つまり、「小さいうちに見つける」ことが何より重要なのです。

Th__20260511104101

大腸がんの怖いところは、早期ではほとんど症状がないことです。

症状が出る頃には、ある程度進行している場合も少なくありません。

代表的な症状としては、

・便に血が混じる
・黒っぽい便が出る
・便秘と下痢を繰り返す
・便が細くなる
・お腹が張る
・便意が何度もあるのに出ない
・貧血や疲れやすさを指摘される

などがあります。

ただし、「出血=がん」ではありません。痔などでも出血します。しかし問題なのは、「昔から痔だから大丈夫」と自己判断してしまうことです。

実際、進行した大腸がんで来院された患者さんの多くが、「痔だと思っていた」とおっしゃいます。

また、健康診断で「便潜血陽性」を指摘されても、「症状がないから」と放置する方も非常に多いのが現状です。

便潜血検査は、大腸がんを見つけるための大切な入り口です。もし陽性を指摘された場合には、「念のため」で構いませんので、大腸内視鏡検査を受けてほしいと思います。

Th__20260511104102

最近では、大腸内視鏡検査も以前より安全に受けられるようになってきました。もちろん検査前に下剤を飲むなどの準備は必要ですが、早期発見によって命が救われる可能性を考えれば、とても大切な検査だと思います。

大腸がんは、比較的「治りやすいがん」と言われています。特に早期で発見できれば、根治できる可能性が高いがんなのです。

だからこそ、「症状がない今」こそが大切なのです。

40歳を超えたら、一度は大腸検査を受けてほしいと思います。

自分自身のために。そして、自分を大切に思ってくれている家族のためにも——。

早期発見に勝る治療はありません。

2026年5月27日 (水)

ヘルニアとは何か?〜意外と知らないその正体〜

梅雨に入り、体調を崩しやすい時期となりました。気温や湿度の変化も大きく、体に負担がかかりやすい季節です。今回は、外来でも比較的よく遭遇する「ヘルニア」について、少しわかりやすくお話ししてみたいと思います。

「ヘルニア」という言葉は、多くの方が一度は耳にしたことがあると思います。しかし実際には、「腰の病気?」とか「脱腸のこと?」など、人によって思い浮かべるものが異なります。これは決して間違いではなく、ヘルニアというのは一つの病名ではなく、「状態」を表す言葉だからです。

医学的にヘルニアとは、本来あるべき場所にある臓器や組織が、別の場所に飛び出してしまった状態を指します。つまり、体の中の“はみ出し”のことです。この定義を知るだけで、ヘルニアという言葉の理解が一気に深まります。

Th__20260511101602

【図①:ヘルニアの基本イメージ】
・正常:臓器が本来の位置に収まっている
・ヘルニア:筋肉のすき間から臓器が外へ飛び出す

その中でも、外科医が最もよく遭遇するのが「鼠径(そけい)ヘルニア」、いわゆる脱腸です。太ももの付け根あたりに、ぽこっとした膨らみが出るのが特徴です。

初期の段階では、立ったときやお腹に力を入れたときだけ膨らみ、横になると自然に引っ込むことが多いのですが、進行すると次第に戻りにくくなってきます。

さらに注意が必要なのが「嵌頓(かんとん)」と呼ばれる状態です。これは、飛び出した腸が元に戻らなくなり、血流が悪くなる危険な状態です。放置すると腸が壊死してしまう可能性があり、緊急手術が必要になります。

Th__20260511101601

【図②:鼠径ヘルニアの進行】



① 初期:出たり引っ込んだりする

② 進行:戻りにくくなる

③ 嵌頓:戻らず痛み・嘔吐など出現

👉 矢印で段階的に示す

 

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

人の体には、血管や神経、精管などが通るための「通り道」がいくつか存在します。特に鼠径部は、もともと構造的に弱い場所です。加齢や筋力低下によって、この部分がゆるんでくると、そこから腸が押し出されてしまうのです。

また、腹圧がかかる生活習慣も関係します。重い物を持つ仕事、慢性的な咳、便秘、肥満などはすべてリスク要因になります。実際に、40代以上の男性に多い病気でもあります。

治療についてですが、残念ながら成人の鼠径ヘルニアは自然には治りません。診断された場合は、基本的には手術が必要となります。

現在の主流は「メッシュ」と呼ばれる人工素材を用いて弱くなった部分を補強する方法です。従来のように筋肉を無理に縫い合わせるのではなく、補強する形になるため、痛みが少なく再発率も低くなっています。また、腹腔鏡を使った手術も増えており、体への負担も軽減されています。

一方で、小児のヘルニアは少し事情が異なります。生まれつきの構造によるものが多く、自然に治ることもあります。ただし、治らない場合には手術が必要になりますので、小児科や専門医と相談しながら経過をみることが大切です。

さらに、手術後に起こる「腹壁瘢痕ヘルニア」というものもあります。これは手術の傷の部分が弱くなり、そこから再び臓器が飛び出す状態です。肥満や栄養状態、感染などが影響するため、予防も重要です。

 

ヘルニアは決して珍しい病気ではありません。しかし、「恥ずかしい」「大したことはない」と放置してしまう方も少なくありません。

ですが、症状が進行すると命に関わる場合もある病気です。

体に「いつもと違う膨らみ」や違和感を感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。

 

まとめ

・ヘルニアとは「臓器のはみ出し」

・最も多いのは鼠径ヘルニア(脱腸)

・放置すると危険な状態になることもある

・成人は基本的に手術が必要

2026年5月13日 (水)

五月病は、真面目な人への勲章かもしれません

4月。新しい学校、新しい職場、新しい部署、新しい人間関係。

春は希望に満ちた季節である一方、多くの人にとって「気を張る季節」でもあります。

初対面の人に気を遣い、仕事を早く覚えようと努力し、周囲に迷惑をかけまいと神経を使う。わからないことがあっても、「こんなことも知らないと思われたくない」と無理をしてしまう。笑顔で過ごしていても、心の中では緊張が続いている方も少なくありません。

そして5月。大型連休を境に、ふっと力が抜けるように疲れが押し寄せてくることがあります。

これが、いわゆる「五月病」と呼ばれる状態です。

五月病という言葉は正式な病名ではありません。しかし現実には、この時期になると「朝起きるのがつらい」「会社や学校へ行きたくない」「やる気が出ない」「眠れない」「食欲がない」といった不調を訴える方が増えてきます。

ここで誤解してほしくないことがあります。

五月病は、決して怠けているわけでも、心が弱いわけでもありません。むしろ逆です。真面目な人、責任感の強い人、周囲に気を配れる人ほど起こしやすいとも言われています。

頑張れる人ほど、限界まで頑張ってしまうのです。

Thpng

新しい環境では、誰もが多少のストレスを受けます。人は変化そのものにエネルギーを使う生き物です。たとえ希望していた進学や就職であっても、変化には緊張が伴います。

さらに4月は、「頑張ること」が評価されやすい時期です。

少し無理をしてでも早く仕事を覚える。

頼まれたことは断らない。

疲れていても笑顔でいる。

弱音を吐かない。

そうして一か月走り続けたあと、ゴールデンウィークで少し立ち止まった時に、心と体がようやく疲れを自覚するのです。

これは異常ではありません。むしろ自然な反応です。

人間の体には、自律神経という大切な調整役があります。緊張すると交感神経が働き、休息時には副交感神経が優位になります。しかし無理が続くと、このバランスが乱れ、睡眠障害、倦怠感、頭痛、動悸、胃腸症状など、さまざまな不調として現れることがあります。

「気合いが足りない」のではありません。

「努力不足」でもありません。

体と心が、「少し休ませてください」とサインを出しているのです。

もし今、この時期につらさを感じている方がいたら、自分を責めないでください。

周囲からは元気そうに見えても、見えないところで精一杯頑張ってきたのではないでしょうか。五月病とは、怠け者に起こるものではなく、「きちんとやろう」と努力した人に訪れる反動なのかもしれません。

だから私は、五月病は真面目な人への勲章かもしれないと思っています。

もちろん、勲章だから放っておいてよいわけではありません。疲れた時には休むことが必要です。

Th_20260419130801

睡眠時間を整える。

少し散歩をする。

好きな音楽を聴く。

一人で抱え込まず誰かに話す。

仕事や学校から少し距離を置く。

こうした小さなことでも、心と体は少しずつ整っていきます。

それでも不調が強い時、長引く時には、心療内科や精神科など専門医へ相談することも大切です。早めに助けを求めることは弱さではなく、自分を守る力です。

春は始まりの季節ですが、同時に疲れやすい季節でもあります。

もし5月になって少し苦しくなったなら、それはあなたが4月を真剣に生きた証拠です。

焦らなくて大丈夫です。

少し休み、少し整え、また歩き出せばいいのです。

2026年5月 6日 (水)

上の血圧・下の血圧、どちらが悪いの?

健康診断や家庭血圧でよく見る数字、たとえば「138/86」や「152/78」。
この二つの数字を見て、「上が高いのは問題?」「下が高い方が危険?」「どちらが悪いのだろう」と疑問に思う方は少なくありません。

今回は、収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)の違い、そしてどちらが身体に悪いのかについて、分かりやすく解説してみたいと思います。

 

血圧とは何か

血圧とは、血液が血管の壁を押す力のことです。
心臓はポンプのように収縮と拡張を繰り返し、全身へ血液を送り出しています。そのたびに血管の中には圧力がかかります。

この圧力を数字で表したものが血圧です。

上の血圧=収縮期血圧

上の数字は、収縮期血圧と呼ばれます。

心臓が「ギュッ」と縮んで血液を全身へ送り出した瞬間、血管の圧力は最も高くなります。その時の値が上の血圧です。

たとえば 150/80 なら、150が収縮期血圧です。

この数字は、

  • 心臓がどれだけ強く血液を押し出しているか

  • 大動脈など太い血管がどれだけ硬くなっているか

と深く関係します。

年齢とともに血管が硬くなると、上の血圧は上がりやすくなります。

下の血圧=拡張期血圧

下の数字は、拡張期血圧です。

心臓が拡張し、次の拍動まで休んでいる時にも、血管には一定の圧力が残っています。その時の値が下の血圧です。

たとえば 150/80 なら、80が拡張期血圧です。

この数字は、

  • 末梢血管(細い血管)の抵抗

  • 血管の緊張状態

  • 自律神経の影響

などと関係します。

若い方や中年初期では、下の血圧が先に高くなることもあります。

 

Th__20260504123801

どちらが身体に悪いのか

結論から言えば、どちらも大切です。どちらか一方だけ見ればよいものではありません。

ただし年齢や背景によって意味合いが変わります。

若い〜中年世代

下の血圧(拡張期血圧)が高い場合、細い血管の抵抗増加や生活習慣の乱れが背景にあることがあります。

・肥満・睡眠不足・ストレス・飲酒・塩分過多・運動不足

などが影響しやすく、将来的な高血圧の入口とも言えます。

高齢者

上の血圧(収縮期血圧)が高くなる方が増えます。

これは加齢により大動脈など太い血管が硬くなるためです。血管のクッション性が失われると、心臓が押し出した力がそのまま圧となって上の血圧が上がります。

このタイプは、脳卒中・心不全・心筋梗塞・腎障害

などと深く関係するため、特に注意が必要です

上と下の差が大きい人は?

たとえば 160/70 のように差が大きい場合、これを脈圧が大きい状態と呼びます。

高齢者では血管の硬化が進んでいるサインであることもあり、放置はすすめられません。

「下が低いから安心」とは言えないのです。

家庭で見るべきポイント

血圧は一回の数字だけで判断しません。

大切なのは、

  • 朝と夜に測る

  • 数日〜数週間の平均を見る

  • 上も下も両方記録する

  • 急な変化にも注意する

ことです。

病院で高くても家で正常な方、逆に病院では正常でも家で高い方もいます。

生活習慣でかなり変わる

血圧は年齢だけで決まるものではありません。

  • 減塩

  • 体重管理

  • ウォーキング

  • 睡眠改善

  • 禁煙

  • 節酒

  • ストレス軽減

こうした積み重ねで、上の血圧も下の血圧も改善することがあります。

最後に

「上が少し高いだけだから」
「下だけ高いからまだ大丈夫」

そう思っているうちに、血管は静かに傷んでいきます。

血圧計の数字は、単なる数字ではありません。
未来の自分の血管から届くメッセージかもしれません。

2026年4月22日 (水)

フレイルという“見えにくい衰え”

フレイルという“見えにくい衰え”— 気づいたときが、始めるとき —

那覇の空は、今年もどこか様子が違います。本来であれば梅雨に入っているはずの時期ですが、まだその気配がありません。

環境は静かに変わります。そして、人の身体もまた同じように、静かに変わっていきます。

まずはこの1枚を見てください

Th__

① サルコペニア、② ロコモ、③フレイル

この3つは、最近よく耳にする言葉です。 難しく感じるかもしれませんが、本質はとてもシンプルです。(整形外科や内科の専門ではありませんの、単純に外科医からみての違いです🙇)

①サルコペニア:筋肉が減る

②ロコモ:骨や関節も含めて動けなくなる

③フレイル:体・心・社会すべてが弱る

つまり、👉 「筋肉の衰え」から始まり、👉 「動けなくなり」、👉 「生活そのものが弱っていく」

この流れが問題なのです。

 

フレイルは“最後に見える形”

フレイルは単なる身体の問題ではありません。

A:体が弱る, B:気力が落ちる C:人との関わりが減る 

この3つが同時に進んでいきます。

だからこそ、👉 「最近ちょっと元気がない」、👉 「外に出るのが面倒になった」

こういう変化が、実は重要なサインなのです。

 

では実際にどんな状態か

Th__20260406181301

このスライドにあるように、フレイルには特徴的な変化があります。

✔ 歩くのが遅くなる

✔ 横断歩道を渡るのがつらい

✔ ペットボトルのふたが開けにくい

✔ 体重が減る

✔ 外出が億劫になる

✔ 疲れやすくなる

どれも特別なことではありません。

だからこそ怖いのです。

 

「年だから仕方ない」は間違いです

ここははっきり言います。

👉 フレイルは「老化」ではありません

👉 フレイルは「進行する状態」です

そして重要なのは、

👉 予防できるし、改善もできる

ということです。

 

なぜフレイルが増えたのか

コロナ禍の影響は大きく、一度社会への絆が減ってそれが回復しない日本の現状があります。

(1)外出が減った、(2)人と会わなくなった、(3)運動習慣が途切れた

実際に、高齢者の身体活動はコロナの前後で約3割減少しています。 この「少しの変化」が、長期間続くことで大きな差になってしまったのです。

 

では何をすればいいのか

答えは、意外とシンプルです。

① まず動く:一番おすすめは屋外でのウォーキングです。太陽の光を浴びる。風を感じる。

これだけで、身体と心は確実に変わります。

② 食べる:筋肉は「材料」がなければ作られません。👉 たんぱく質(肉・魚・卵・大豆)、👉 バランスの良い食事

これが基本です。

③ 人と関わる:実はこれが最も重要です。人と話す、外に出る、誰かと関わる

これがフレイルの進行を止めます。

 

最後にフレイルは、ある日突然起こるものではありません。

👉 静かに進む、 👉 気づきにくい、👉 でも確実に進行する

だからこそ、

👉 「気づいた今」が一番大事なタイミングです

 

「最近ちょっと歩くのが遅くなったな」「外に出るのが減ったな」そう感じたら、それは十分なサインです。

大きなことは必要ありません。

まずは一歩。外に出て、少し歩いてみてください。それだけで、未来は変わり始めます。

2026年4月 8日 (水)

便秘とは何か ― 排便から見える体のサイン」

便秘とは何か ― 排便から見える体のサイン」

便秘はありふれた症状ですが、体の大切な変化を教えてくれるサインでもあります。

今回は「便秘症の本当の意味」を分かりやすく整理してみたいと思います。

 

便秘とは何か ― 排便から見える体のサイン

外来診療をしていると、「便秘で困っています」という訴えを耳にする機会は非常に多くあります。

若い女性から高齢の方まで、年代を問わず多くの方が便秘に悩んでいるのが現状です。

しかし一方で、「便秘とはどのような状態をいうのですか」と尋ねられると、意外に一言では説明しにくいものでもあります。

一般的には、「毎日便が出ないこと」を便秘と考えている方が多いように思います。

確かにそれも一つの目安ではありますが、医学的にはそれだけで便秘症とは言い切れません。

Th_chatgpt-image-2026318-15_43_15



排便の回数には個人差があり、2日に1回、あるいは3日に1回の排便でも、本人に苦痛がなく自然に排便できているのであれば、それは病的な便秘とは考えない場合もあります。

日本消化器病学会では、便秘を「排便回数や便量が減少すること」と定義しています。

ただ、実際の診療ではそれに加えて、「排便のしにくさ」があるかどうかが重要な判断材料になります。

つまり便秘症とは、単に便が出ない状態ではなく、排便に困難を伴い、生活の中で不快感や支障をきたしている状態と理解すると分かりやすいでしょう。

例えば、排便時に強くいきまなければならない、便が硬くて出にくい、排便に時間がかかる、出た後も残便感がある、お腹が張る、腹痛を伴う、といった症状がある場合には、排便回数にかかわらず便秘症と考えた方がよいこともあります。

逆に排便が数日おきでも、自然にすっきり排便できているのであれば、必ずしも治療が必要な便秘とは言えません。

 

一般的な目安としては、排便回数が週3回未満の場合に便秘と判断されることが多いですが、これは絶対的な基準ではありません。

大切なのは、「その人にとって自然な排便リズムが保たれているかどうか」です。

また便秘にはさまざまな背景があります。

 

Th_chatgpt-image-2026318-15_43_26



最も多いのは、食事量や水分摂取の不足、食物繊維の不足、運動不足、生活リズムの乱れ、加齢による腸の動きの低下などによる慢性的な便秘です。

一方で、大腸がんや炎症性腸疾患、糖尿病や内分泌疾患、神経疾患、さらには服用している薬の影響によって便秘が起こることもあります。

特に注意が必要なのは、今まで便秘ではなかった方が急に便秘になった場合です。

体重減少や発熱を伴う、便に血が混じる、腹部の張りが強い、排便習慣が急に変化した、といった症状がある場合には、単なる体質と考えずに医療機関を受診することが大切です。

便秘は命に関わる病気ではないと思われがちですが、生活の質を大きく低下させる症状の一つです。

排便がうまくいかないことで食欲が落ち、腹部膨満感が続き、気分まで重くなる方も少なくありません。

高齢者では便秘がきっかけで活動量が減り、全身状態の悪化につながることもあります。

日々の排便は、体の状態を映し出す鏡のような存在です。

便の回数だけでなく、形や硬さ、色、出しやすさなどに少し目を向けることで、自分の体調の変化に早く気づくことができます。

便秘症とは、単に便が出ない状態ではなく、排便が順調に行われず、そのことで困っている状態そのものを指しているのです。

便秘に悩んでいる方は決して少なくありません。

しかしその多くは、生活習慣の見直しや適切な薬の選択によって改善する可能性があります。

まずは「何日出ていないか」だけでなく、「気持ちよく排便できているかどうか」に目を向けてみて下さい。

それが便秘症を正しく理解し、上手に付き合っていく第一歩になると思います。



2026年4月 1日 (水)

血液型という「人類の記憶」― 生き延びるために残された多様性

血液型については過去にも色々と書いていますので、今回は壮大な人類の歴史から血液型を考えてたいと思います。(➡︎輸血のための交差適合試験

血液型は人類が生き延びてきた証なのかもしれない

日常生活の中で、私たちは血液型を話題にする機会が少なくありません。

「A型だから几帳面」「O型だから大らか」など、血液型と性格を結びつけた会話は、日本ではごく自然な光景とも言えるでしょう。

しかし血液型というものを、もう少し大きな視点、すなわち人類の歴史という時間の流れの中で考えてみると、そこにはまた違った意味が見えてくるように思います。

近年の遺伝学の研究では、現代人類はアフリカに存在していた一つの集団から世界各地へと広がっていったと考えられています。

肌の色や顔立ちが違っていても、遠い祖先をたどれば私たちは同じルーツを持つ存在なのです。私たちの外見の違いはその環境に適用して変化します。寒くて太陽光線が少なくければ、メラニンが少なく、寒い空気が直接肺に入るのを防ぐために鼻が細く高くなります。白人の誕生です。次第に西に広がり中間層の黄色人種が誕生。そのような環境変化で大きく黒人、白人、黄色人種に分かれたことは理解できそうです。そう考えると、一つの素朴な疑問が浮かびます。

もし人類が同じ祖先から広がったのであれば、血液型も一種類のまま残っていてもよさそうに思えます。同じ黒人でも白人でも黄色人種でも、実際には、A型、B型、AB型、O型と複数の血液型が混在しています。

この理由について、現在有力とされている考え方の一つが進化における多様性の保存という視点です。

Th_chatgpt-image-2026312-16_14_16

太古の昔、人類は医療の助けをほとんど得られない時代を生きていました。感染症は時に集団の存続を脅かすほどの脅威となり、気候や食生活の変化もまた生存を左右する要因でした。

そのような環境の中で、血液型の違いは免疫反応の違いとして現れ、結果として生き延びる確率にわずかな差を生んだ可能性があると考えられています。

ある血液型は特定の感染症に対して比較的強く、別の血液型は異なる病気に対して抵抗力を持つ。

Photo_20260312164901

もし人類が一つの血液型だけで構成されていたなら、ある感染症が流行した際に、集団全体が大きな打撃を受けていたかもしれません。

しかし血液型が分かれて存在していたことで、誰かが生き残り、その命が次の世代へとつながっていった。

このように考えると、血液型の違いは優劣ではなく、人類という種が長い歴史を生き延びてきた証とも言えるのではないでしょうか。

進化とは、最も優れた形を作ることではなく、絶滅しない仕組みを作ることだと言われます。

肌の色の違いも、顔立ちの違いも、そして血液型の違いもまた、人類が環境の変化の中で適応しながら歩んできた軌跡の一部なのかもしれません。

普段何気なく話題にしている血液型も、その背景には何十万年という時間が刻まれています。

そう思うと、血液型という存在が少し違った意味を持って見えてくるような気がします。

人はそれぞれ違う。

私のような外科医にとっては輸血と関連する血液型ですが、その違いの中には、何十万年という時間をかけて刻まれてきた「生き延びるための記憶」が潜んでいるのかもしれません。こちらの方がロマンチックです。

 

2026年3月25日 (水)

その痛みは昔の感染かもしれません(水痘と帯状疱疹)

今日のラジオ放送は春先に広がりやすいウイルス感染症の話をしました。

春から初夏にかけて増えてくる感染症として代表的なものに麻疹、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、水痘(水ぼうそう)があります。

コロナ禍の期間中は、多くの方が感染対策に努めた結果、インフルエンザをはじめとする様々な感染症の流行が一時的に抑えられていました。しかし現在は社会活動が以前の状態に戻りつつあり、人の移動や接触の機会も増えています。その結果、これまで見られなかった感染症の流行が再び起こる可能性があります。

春は生活環境の変化が多い季節です。進学や就職、転勤や引っ越しなど、新しい生活が始まることで、知らず知らずのうちに心身に負担がかかることがあります。こうした変化は体の抵抗力の低下につながり、思いがけない体調不良の原因となることもあります。

今回は、この季節に知っておいていただきたい感染症として、水痘(みずぼうそう)と帯状疱疹についてお話しします。

体の中には、長い年月を経て再び活動を始めるウイルスが存在します。子どもの頃に経験した感染症が、年齢を重ねた後の体調変化として現れることがあるのです。

 

Th_chatgpt-image-2026318-14_46_09
図:子どもの頃の水痘感染と帯状疱疹の発症の関係

 

水痘は子どもの頃に多くの方が経験する感染症です。発熱とともに全身に水ぶくれのような発疹が現れ、数日かけてかさぶたへと変化していきます。現在はワクチンの普及により重症例は減っていますが、それでも毎年一定数の患者さんが見られます。

しかし重要なのは、水痘は一度治れば終わりの病気ではないという点です。原因となる水痘帯状疱疹ウイルスは、感染後も体の中の神経の近くに潜伏し続けます。普段は免疫の働きによって抑えられていますが、加齢や疲労、ストレスなどにより免疫力が低下すると再び活動を始めます。

その結果として発症するのが帯状疱疹です。

Th_chatgpt-image-2026318-14_47_08

帯状疱疹は体の左右どちらか一方に、帯のように広がる痛みと発疹が特徴です。皮膚の症状が治った後も神経の痛みが長く続くことがあり、これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。特に高齢者では生活の質を大きく低下させる原因となることがあります。

また顔面に発症した場合には視力や聴力に影響する可能性もあり、早期の受診と治療が重要です。

 

なんとなく子供の時期に罹ったウイルス感染症は大人になるともう感染しないというイメージがあります。水痘の場合は子どもの頃の感染症が、

人生の後半に思わぬ形で現れることがあります。

日頃の体調管理や十分な休養、そして必要に応じたワクチン接種など、小さな心がけが将来の健康を守ることにつながります。

これから迎える暖かな季節を、安心して過ごすためにも、

正しい知識を持っていただきたいと思います。

2026年3月11日 (水)

骨粗鬆症 ― 私たちの骨は静かに働いています

今日はラジオでもお話ししましたが、「骨」について少し考えてみたいと思います。

私たちの骨は普段あまり意識されることはありません。しかし骨は体を支える大切な臓器です。立つこと、歩くこと、座ること。こうした日常の動作はすべて骨があるからこそ可能になります。もし骨がなければ、私たちはナメクジやクラゲのような軟体動物のようになってしまいます。

さらに骨には、体を守る働きもあります。脳は頭蓋骨に守られ、心臓や肺は肋骨に囲まれています。骨はまさに体の「鎧(よろい)」のような存在です。

しかし骨はただ硬いだけの組織ではありません。実は骨は常に作り替えられています。古くなった骨を壊し、新しい骨を作るという働きが続いており、これを「骨のリモデリング」と呼びます。

ところがこのバランスが崩れると、骨は徐々にもろくなります。これが骨粗鬆症です。

骨粗鬆症が問題になる理由は、骨折の危険が高くなることです。特に高齢者では転倒などをきっかけに骨折し、その後の生活に大きな影響を与えることがあります。太ももの付け根の骨折(大腿骨頸部骨折)は高齢者の寝たきりの原因の一つとして知られています。

ところで、骨はどのようにして強く保たれているのでしょうか。

実は私たちは、特別なことをしなくても骨を鍛えています。その理由は「重力」です。私たちは地球の重力の中で生活しており、立っているだけでも骨には負荷がかかっています。この刺激が骨を強く保つ働きをしています。

Chatgpt-image-202634-16_12_46

このことは宇宙飛行士の研究からもよく知られています。宇宙では重力がほとんどないため、骨に負荷がかからず、骨からカルシウムが失われてしまいます。そのため宇宙飛行士は毎日2〜3時間ものトレーニングを行い、骨や筋肉の衰えを防いでいます。

骨を守るために大切なのは、栄養と運動です。カルシウムを含む食事、日光によるビタミンDの生成、そして日常的な運動が骨の健康を支えます。激しい運動である必要はありません。歩くことや体を動かす習慣だけでも骨には十分な刺激となります。

骨は普段あまり意識することのない臓器ですが、私たちの体を静かに支え続けています。

人間の体は本当によくできています。普段当たり前のように歩いたり立ったりしていますが、その裏では骨や筋肉が見事なバランスで働いているのです。年齢を重ねるほど、こうした体の仕組みに少し目を向けてみることも大切なのかもしれません。

より以前の記事一覧