今日(2021年9月8日)のFMレキオは「胃癌について」の説明をしました。
日本は世界的にみても胃癌の発生が多い国の1つです。
胃癌の診断や手術をする際に「どうして胃癌になったのでしょう」と質問を受けることがあります。今現在でも答えは簡単ではありません。
癌の一番の原因は・・・・「年齢です」・・・と答えるとある意味正しいのですが元も子もありません。 寅さん風に言うと「それを言っちゃあ、おしめいよ〜」となるわけですので、まじめに話をすすめます😅
現在の胃がんの主なリスクとしては①ヘリコバクターピロリ菌感染 ②多量の塩分 ③喫煙 ④多量飲酒 ⑤緑黄色不足・・など
胃がんは胃の粘膜から発生しますが、癌化はその粘膜内で何らかなの長期的な刺激や感染によるダメージの継続で細胞のDNAが次第に破壊されて癌化が始まって来ます。
昔ブログで書いたイラストを再度利用して、もう一度まとめてみたいと思います。
<胃の粘膜への長期的な刺激で何故がん化が起こるのか>歴史的な経緯を参考に簡単にまとめてみました。
(A) 少し歴史を遡りますが、発がんのメカニズムについて、19世紀にはデンマークのフィビガー先生の提唱した「寄生虫発癌説」とドイツのウィルヒョウ先生が唱えた「癌刺激説」の二大論争が起こりました。
当時ヨーロッパで煙突掃除夫の間で陰嚢癌が多発しました(陰嚢がんはこれまで稀でした)。ススがズボンの中に入り、陰嚢の部分に貯まることが原因ではないかと考えられました。
それを実験で証明したのは、実は日本の病理学者の山極勝三郎先生と市川厚一先生でした。今のように日本人の科学者が正しく評価されていたら恐らく日本にノーベル医学賞があとひとつ生まれたのは確かです。この2人は来る日も来る日もウサギの耳にコールタールを塗ることを繰り返すことで、塗った部分から癌が発生したのです。世界で初めて実験で癌を作り出すことに成功し「癌刺激説」が優位となりました。 持続する刺激や炎症が発癌と関与すること示唆する重要な実験でありました。
→皆様方もB型やC型肝炎ウイルスの持続感染により慢性肝炎、肝硬変となり肝癌が発生することやパピローマウイルスの感染により子宮頸がんが発生することは皆様もマスコミ等でご存じと思います。
これらの歴史的な疫学により、上記のウイルスなどの持続感染でも癌化が起こることが分かっていたのですが、胃酸(=塩酸)がある胃の粘膜にはウイルスや細菌は住み着かないと研究者の間でも思い込んでしまっていました。
胃酸の様な強力な酸性の中でも生き延びる細菌(ヘリコバクタ・ビロリ菌 )が胃の粘膜で見つかり、色々な病気と関連があることで、2005年のノーベル医学・生理学賞を受けることになったのです。
これまで強力な酸性の胃液(塩酸)で細菌やウイルスは死滅するものと考えていたのですが、実際はピロリ菌はこの強力な胃酸から身を守りながら胃の壁に食い込むように生きていて、胃に慢性の炎症を引き起こします。慢性萎縮性胃炎とよばれ、胃癌の発生母地と考えられています。 胃に慢性の炎症を引き起こすことで胃癌になりやすい状態を作っていたのです。肝炎ウイルスの持続感染と似たメカニズムです。 ピロリ菌は幼少期に感染が起こると言われていますので、胃がん発生には何十年も慢性炎症を起こした結果、発症すると考えられています。胃がん以外にも現在ではピロリ菌関連疾患も次々と関連がはっきりして来ています。
日本人の50代以上の年齢ではピロリ菌をかっている(?)のが70%を越えます。しかし皆が胃癌になるかというとそうでもありません。ただピロリ菌のいない人で胃癌になるのは稀でもあります。
ではピロリ菌だけが胃癌の発生と関与するのか? つい10〜20年前まで塩辛い食べ物を食べる地方で胃癌が多いため、塩分過剰摂取が胃癌発生に関与する最大の原因と言われていました。 今でも食塩濃度の高い食事の関与は明らかです。 その他に喫煙、多量のアルコール、緑黄色野菜不足、食品添加物、生活習慣病、加齢などなど・・・発癌と関与することが疫学的に分かっています。 さらに遺伝子の異常による関与も解明されつつあります。1つの因子だけでなく色々な原因が絡み合って癌が発症します。
私のような老外科医には遺伝子レベルのことにはついていけませんので、簡単に胃がんのリスクとなる慢性炎症や刺激を引き起こす原因をある程度排除出来れば胃がんの発生はかなり減少すると思います(年齢は防ぎようもないので😅)
日本では今後胃がんが減少して行きます。そして大腸癌や膵癌、乳がん、前立腺がんなどが増えて行くと思いますし、喫煙率の低下と共に肺がんも徐々に減少に転じると考えています。
そのようなことを考えると日頃の生活習慣や嗜好品なども重要だと改めて思うのです(私はあまりやれていませんが😂)。
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