急性虫垂炎
FM放送にて医療番組を行って14年になろうとしていますが、虫垂炎を含める急性腹症について話した事がありませんでした(1時間で急性腹症を話すには無理があるのでやらなかったと言うことも多少はあるのですが・・😅)
ブログでは腹部外科の緊急手術で1番多いのが急性虫垂炎だと思いますので、今日はこの「急性虫垂炎」について書いてみます。
急性虫垂炎で生涯にわたって手術を経験された日本人は大凡5〜7%程度いらっしゃると思います。それでも素人の方が「急性虫垂炎で虫垂切除術を受けた」なんて言う方は少ないと思います。多くの方は今でも「盲腸の手術をした」と話をすると思うのです。では盲腸を切ったのかというとそうではなくてやはり虫垂を切除したことになっているはずです。 ではこの辺りから
上のシェーマを見ながら説明します。食事を取ると食道→胃→十二指腸→小腸(空腸・回腸)となって大腸(盲腸・結腸・直腸)となって排出されます。大腸の始まりの部分で小腸が入ってくる部分よりも、下側に僅かにある大腸の部分を盲腸と呼んでいます。盲腸は特に草食動物では発達していて繊維質の分解に役に立つ部分ですが、肉食動物や人間では退縮してあまり意味がなくなっています。その盲腸の先端からトンネルの様に開いている小指ほどの大きさの管状の組織が虫垂です。 これも動物により違いもありますし、人間にとってまだ必要なものかどうかも議論の最中です。医学会でも免疫システムのためにあった方がいいとか、不必要なものなど様々な意見があり結論は出ていません。
虫垂は入り口が盲腸と同じ粘膜で被われているのですが、その入り口が何らかの理由(便の塊の糞石やバリウム検査の後にバリウム、あるいは小腸の炎症で周りのリンパ節が腫れた影響など)で詰まったり、詰まり気味になることで、急激に虫垂の内腔の圧が上昇し、炎症が強くなることで、急性虫垂炎が発症する場合があります。
上の図のように、多くの方は右の下腹部に虫垂はあります。何らかの理由で虫垂の中の圧が上がり、炎症を起こすことで、痛みと熱(微熱程度)がでます。 経験された方や知識がある方は、虫垂炎でも最初は胃の痛みだったり、場所がはっきりしない痛みが、最終的には右下腹部の痛みがはっきりしてくることを知っているかもしれません(勿論皆同じ経過ではありませんが・・)。 お腹の中には胃からカーテンのようにぶら下がった大網と言う組織があります。 お腹の中に炎症があるとその大網が炎症の部位を包むようにして、膿がお腹全体に流れないようにする作用があります。 炎症や外傷で腸に穴が開いたも限局性の腹膜炎に止めるような働きがあります。
長々と大網の位置と作用を書いたのは、虫垂に炎症が起こると早い時期に大網が異常に気がつき、痛みとして伝達します。 根元が胃の部分にあるために、虫垂(右下腹部)の痛みが胃の痛みのように感じてしまいます。 そのことから虫垂炎の始まりの頃に胃の痛みやむかつきがくることがあり、病院へ受診しても胃カメラを受けて帰って来ることもあるのです。 その後半日から1日ぐらい経つと胃の痛みよりも右下腹部の痛みが急速に強くなり、本人も右下腹部が痛いですと病院を訪れる事になるのです。
右下腹部の痛みは次第に増強し、始めは押した時に痛みがある程度ですが、次第に右下腹部を押して離した瞬間も痛みを感じます(これを反張痛といい腹膜炎の所見となります)。更に強くなると無意識にその場所を押そうとすると、自分を守る為に筋肉が硬直(筋性防御)が起こります。その僅かな違いを外科医は触診で確かめて手術の必要性を判断します。 現在はエコーやCTがあるために、ほぼ確実に判定が可能となっていますし、虫垂炎以外を除外することもある程度分かるようになりました。
では手術となると、腹腔鏡を使うか使わないかも判断に迷うことがあります。同じ急性腹症でも胆嚢炎は可能ならば腹腔鏡の利点が大きいのですが、通常の虫垂炎ならどちらもメリット・デメリットともあまり変わりません。腹腔鏡を使う先生方は傷が小さいとか色々なことを除外出来ると利点を言いますが、術前のCT検査にてその場所がピンポイントで分かりますので、痩せている方なら2Cm の傷で十分やれるのです。 35年以上外科医をやっている禿げオヤジにとってはどちらでも良いと思いますが、皮下脂肪が厚くて比較的軽症なら腹腔鏡を、痩せている方なら腹腔鏡を使うまでもないと考えています。まあケースバイケースです😊
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コメント
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こんばんは。
盲腸ではなく虫垂炎なのですね!
私は子宮筋腫の手術のおり、
取って頂きました。
亡き父は胃の痛みと思い、温めていたのですよ!
段々痛みが酷くなり、腹膜炎となり
知人のお医者さまの病院で手術でした。
昔ですから傷口も大きく、
三姉妹で見舞いに行った折、
ガーゼの取り替え?を見て
次々と貧血を起こし空いてるベッドで休ませて貰ったのですが、
私が一番酷かったです。
末妹も手術しております。
昨日は妹が腹部動脈瘤の手術でした。
お陰様で今朝からお食事、廊下も歩いているとメールがあり、
ホッとしました。
投稿: マコママ | 2021年3月24日 (水) 19時54分
こんばんわ・・・
虫垂炎をこのように詳しく解説されたのをはじめて拝見させて頂きました。
俺はまだ手術したことなく残っていると思いますが、小さい頃はよく腹痛が
おこりそれが左が多く、「左盲腸だな」何ていわれたものでした。実際、左
盲腸ってないですよね・・・
それから、盲腸を取り敢えず散らしたなどとも聞いた事ありましたが、どんな
ことなんでしょう?
忙しい中にすみません・・・時間がございましたらで結構です。
投稿: でんでん大将 | 2021年3月24日 (水) 20時39分
マコママさん、こんばんは。
よく皆様方の会話の中でも、そして私も患者さんと話をする時に「盲腸の手術をしましたか?」なんで聞くわけです(実際は虫垂切除ですが)
マコママさんも筋腫の手術の時に虫垂も切除されたのですね。それなら虫垂炎になることはもうありませんね(笑)。
胃の痛みだと考える方も多いのですが、最終的には炎症がひどくなって手術になるケースも多いです。お父様もそうだったのでしょう。
妹さん無事手術も終えてよかったですね💖
投稿: omoromachi | 2021年3月24日 (水) 21時28分
でんでん大将さん、こんばんは。
偶には自分達の専門の外科の話もした方がいいと思い書いてみました。まだまだ虫垂炎よりも盲腸の方が認識度が高いようです。
大将さんはまだ虫垂は残っているのですね。私の子供の頃は、高校などで虫垂炎の手術をした場合などは、皆から英雄扱いでした。友人たちと連れだって病院にお見舞いにいった楽しい思い出があります(同級生は大変だったでしょうが・・・)
盲腸(虫垂炎)を散らすとは、手術をせずに、抗生剤や点滴などで感染を抑えて、改善した場合を示すことだと理解しています。最近は早期で発見できて抗生剤なども改善されていますので、手術をせずにすむ軽症の虫垂炎も多くなりました。 このことを盲腸を取らずに散らしたと表現していると思います。この場合でも3割程度はまた再発することが統計上あります。
ただ虫垂炎は半日単位で急激に悪化しますので、破れる(虫垂の中に膿が貯まって穴が空いてしまい、膿が腸の外に出て腹膜炎が一気に悪化)前に手術に踏み切ることが重要だと思います。
投稿: omoromachi | 2021年3月24日 (水) 21時43分
こんにちは!
このブログの絵を拝見していて、そういえば先生は大腸癌のことを書かれていないかなって思って、過去のページを探してみました。
数年前に2回?書かれていますね。
拝見しました。
実は私、先日、人間ドックで便潜血があり、大腸検査を受検したところです。
結果、S字結腸にポリープが1つ見つかり、そのまま切除して病理組織検査した結果、異常なしで安心しました。
ただ、先生から、このポリープは放っておくと癌化するんだよと言われてゾッとしましたよ。
今年の年賀状を2つ上の佐賀に住む従兄弟に出したところ、三が日を過ぎた頃に彼の奥さんから電話があって、秋に無くなっていたとのことでした。
定年退職して、すぐに大腸癌が見つかり、手遅れだったとのこと。
大腸癌が見つかってから2年持たなかったようです。
なにぶん、歳の近い血の繋がった従兄弟だったこともあり、ひょっとしたら自分もそうかなって憂鬱な気分でした。
もしよろしければ、大腸癌のブログを加筆して最アップしていただければ幸いです。
投稿: FUJIKAZE | 2021年3月25日 (木) 17時20分
こんばんは。
こんなに詳しくわかったのは初めてでした
なんと私は大学の冬休みに虫垂炎で手術を
受けました。前日の夕方より腹痛と吐き気が
あり、食あたりかかと思いましたが
朝にはひどい痛みとなり、我慢できずに
病院を受診、その夕方には手術となりました
腰からの麻酔でしたが、途中で気持ちが
悪くなり、麻酔科の先生が薬を使ったの
でしょうか、その後は眠っていて記憶が
ありません。気がついたら病室でした。
傷の痛みよりもオシッコの管が痛くて
二度とあの管だけは入れたくない思い出
があります。
翌日は大学の友人たちが訪ねて来て、
下ネタの話や看護婦さんが綺麗かどうか
で盛り上がった懐かしい思い出があります
私も今でもつい「盲腸の手術をしました」
と言ってしまいます(笑)。
投稿: ツクシンボ | 2021年3月25日 (木) 19時17分
FUJIKAZEさん、こんばんは。
大腸ポリープを切除(ポリペクトミー)されたのですね。大腸ポリープの多くを占める腺腫性ポリープは多くなればなるほど癌化率が上がる傾向があります。一般的に5mm以下なら、様子を見て、5〜10mmならポリープの形状をみて切除、10mm以上なら初めからポリペクトミーを勧めています。
大腸癌は他の消化器の癌の中では悪性度は余り高く在りませんし、切除出来ない場合にも化学療法が効果がある場合も多く決して予後の悪い病気ではありません。しかし検査の煩雑さや羞恥心なども手伝って検査を受ける方が少ないのです。 女性の癌の死亡で1位なのが大腸癌ですが、進行癌で発見される為で、胃カメラと同じとは言いませんがせめて2〜5年に1回でも検査を行うと死亡率は一気に減ると考えられています。
私も大腸癌のことをどのように書いたか覚えていませんが、しばらく書いていませんので、大腸癌について放送およびブログを書いてみようかと思います。
もしもFUJIKAZEさんが書いて欲しいのがあれば教えてそれに対する記事を書いてみたいと思いますが・・・(例えば、ポリープと癌の関係や、癌の疫学、検査法、癌の治療、手術法など)・・・余り専門的になると誰も読んでもらえませんので、一般論としてなら書いてみます😊
投稿: omoromachi | 2021年3月25日 (木) 21時02分
ツクシンボさん、こんばんは。
ツクシンボさんも虫垂切除の経験者なのですね。実に典型的な年代と経過だと思います。医学生や研修医の教科書に載せたいぐらいです😊
私も高校時代の同級生が虫垂炎で学校を休んだ時には、興味津々4〜5人で連れ立って病院に行きました。手術翌日で痛そうでしたが、皆で笑わせたことを思い出します。
大学生ならもう綺麗な看護婦さんの話題で持ちきりだったかも知れませんね。白衣の天使ですから(笑)。ツクシンボさんも恋におちませんでしたか?
投稿: omoromachi | 2021年3月25日 (木) 21時07分