胃潰瘍の治療(変遷)
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今日のFMレキオは消化性潰瘍について話をしました。このブログでは消化性潰瘍の治療の変遷について書きたいと思います。
歴史上、消化性潰瘍と思われる症状や治療の記載は、ヒポクラテス(Hippocrates:紀元前460年)の時代と言われています。 近代的な治療は1700年代後半からで、1800年代には消化性潰瘍の原因として胃液の研究が進み、塩酸やペプシンなどの過剰によるもの、胃の粘膜の血流障害説、迷走神経や自律神経失調などのストレス説など、現代に医療と結び付く説が学会で議論されるようになりました。
1963年に様々な意見を集約した形で攻撃因子と防御因子の破綻が潰瘍の原因とした説が認められ、現代まで支持されています。消化性潰瘍の原因を天秤にかけた状態でバランスが取れていたら潰瘍にならないが、何らかの原因で攻撃因子側に天秤が振れたときに潰瘍になるというモデルで、解り易いため現在でも説明に利用されています。
上の図のうち、潰瘍の治療薬の中心となるのは攻撃因子を防ぐことになります。1970年代までは胃酸の産生を直接抑制する治療薬はなく、潰瘍の治療は酸を中和する制酸剤と胃の動き等を抑える抗コリン剤が中心でした。これらは大きな潰瘍に関しては効果が少なく、長期入院や手術が必要でした。実際私よりも上の年代の外科医は毎日のように胃潰瘍の手術をしていたと聞いています。
胃潰瘍の治療を一変させたのは、今でも名前をよく聞くH2ブロッカーの開発と普及にあります。日本では1985年頃から普及して来ました。外科医になりかけの私も発売当時はこの効果に驚きを持って観ていました。その後改良が加えられ、更に胃酸抑制の強いPPI(プロトンポンプ阻害薬)が潰瘍治療に主流になります。またもう1つの流れとしてピロリ菌感染に対する除菌療法も行われるようになります。
ピロリ菌は胃に住み着いて胃粘膜に慢性の炎症を起こすことより、萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃がんなどの様々な病気を引き起こすために、ピロリ菌陽性の場合は除菌療法を行い、その他の治療を組み合わせます。
H2ブロッカーを開発した英国の薬理学者のブラック博士は1988年に、ピロリ菌感染の発見によりオーストラリアの微生物研究学者のマーシャル教授と病理学者のウォレン教授は2005年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
このようなことを書くと短い時間でも劇的に医療は進んだことを実感します。しかしこの潰瘍の歴史をみても改めてヒポクラテス大先生は凄いのだと感じる次第です。なんたってヒポクラテスが活躍したのは日本では弥生時代の年代だったのですから・・・💖
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こんばんは。
いよいよ梅雨前線が北上でこちらも間もなく梅雨入りと思います。
鬱陶しい日々になると何となく食欲も少し落ちて来ますね?
気をつけて胃にも優しく〜!
胃潰瘍は最も多い消化器系の病気でしょうか?
何事もバランスが大切と教えて頂きありがとうございました。
今は良いお薬で快復するのは有り難い事ですね?
手術は大変です!
投稿: マコママ | 2020年6月10日 (水) 20時00分
マコママさん、こんばんは。
梅雨前線も次第に北上し、本州地域も梅雨入りとなるのでしょうね。嫌なムシムシ感がやって来ますね。
日本人ではおおよそ胃潰瘍が30万人で十二指腸潰瘍が4,4万人と推測されています。この数値よりも遙かに多くの方がお薬を飲まれています。一般薬では降圧剤と制酸剤・抗潰瘍薬が一番多く用いられていると思います。
私は食事などに関しても余り偏りすぎるのはよくないと考えています。マコママさんが書いてあるように何事にもバランスが重要だと思います。
私より年配の外科医は沢山の潰瘍の手術を経験されています。ただし胃潰瘍と胃癌との手術の難易度は全く異なる事が多いのです。
いつもコメント頂き本当に感謝致します💖
投稿: omoromachi | 2020年6月10日 (水) 21時47分
こんばんは・・・
人間ドックを受けた際に、胃潰瘍になった痕跡があると言われたことがありました。
胃潰瘍が疑われたら牛乳が良いとも聞いたことがあります。
胃潰瘍は自然に治癒したりすること、また牛乳の効果などあるのでしょうか・・・
すみません、また診察を受けるような感じになりました。
投稿: でんでん大将 | 2020年6月10日 (水) 22時14分
でんでん大将さん、こんばんは。
気づかないうちに潰瘍になった方もいらっしゃいます。特に若い時に胃が痛かったなどの経験をした方が後の人間ドックなどの検査で潰瘍だったと分かることもあります。
胃潰瘍に牛乳は賛否がありますが、基本的にはいいと思います。牛乳を含めタンパク質は胃酸の分泌を増やす作用もありますが、胃酸を中和してくれることと、胃酸が高い状況下では良質なタンパク質を取ることで胃の粘膜を修復させてくれます。2500年前のヒポクラテスの記述書には潰瘍の治療として牛乳を飲ませることが書いてあります。
もちろん潰瘍になっても、禁酒や香辛料を避けたり、胃に優しい食事の工夫や安静、ストレス軽減などで自然に治って行く場合も多いです。
投稿: omoromachi | 2020年6月10日 (水) 23時05分
先生、ご無沙汰しておりました。
いつも素敵な景色に綺麗な花を見させていただき、有り難うございます。
心が和むひと時です。
今回は、私にとっては大変興味深いお話です。
ヒポクラテスは本当に凄い人なんですね。
紀元前460年にこのような医学者がいたなんて、もう驚きの一言です。
ギリシャはさぞかし、医学が進んでいるのでしょうね。
勿論日本も日々医学は進歩していると思います。
ソクラテスやアリスステレス、はたまたプラトンの様な哲学者の名前は
知っていましたが、ヒポクラテスは初めて知りました。
夫に聞いてみたら有名な人だよと云う答えが返ってきたので、
特に医学に携わってる方は皆さんご存じなのでしょうね。
5年前に、胃潰瘍で胃に穴があく寸前で入院しました。
運良く、手術は避ける事は出来ました。
帯状疱疹後の神経痛で鎮痛薬を飲み過ぎた結果でした。
前回の胃潰瘍のお話で鎮痛剤のお話がありましたね。
胃薬も同時に飲んではいたのですが、余りの痛さに間を開けずに
飲んでしまったのです。
なにはともあれ、手術をしないで、薬で治るならば、患者にとって負担が少なく
最高です。
だらだらと、稚拙な文章ですみません。
これからもよろしくお願いします。
投稿: ガルボ | 2020年6月11日 (木) 12時52分
ガルボさん、こんばんは。
そうでしたか、昔なら手術になっていたかもも知れませんね。本当に薬のお陰で胃潰瘍で手術をする方はこの40年間で激減しました。
帯状疱疹後の神経痛は辛いですね。潰瘍の原因の1つに鎮痛薬があります。どうしても胃に負担がかかるのでしょうし、痛みだけでも相当のストレスにもなりますから。
私は外科医ですが、手術をしないで済むならその方がよいと思っています。
ヒポクラテスは紀元前の時代に今にも通じるような医学の道を教えてくれた人です。今でも医学部に入学すると「ヒポクラテスの誓い」について一度は学びます。 2500年経っても医学が目指すものは同じなのだと考えています。 私もこの年になっても良き臨床医でありたいと日々願っています。
私こそ稚拙なこのブログを読んで頂き、本当に感謝致します。
投稿: omoromachi | 2020年6月11日 (木) 19時40分
先生、こんにちわ。
昨日、ヒポクラテスの誓いを、ネットにて読みました。
一般向けに、わかりやすく書いてありました。
本当に立派で偉大な医学者なのだとあらためて思いました。
今迄全く知らない事を知って、大変新鮮な気持ちになりました。
これも、先生のおかげです。
感謝いたします。
投稿: ガルボ | 2020年6月12日 (金) 12時15分
ガルボさん、こんばんは。
早速、ヒポクラテスの誓いについて調べたのですね。一般向けに書いてあるのもあったのですね。
あの当時で現代の医学にも通用する考えを示してくれた偉大な方です。
彼の誓いを読むと、技術は進んできたにもかかわらず、現代の医学の学生や医師がその理想にまだまだ近づいていない気が致します。
ガルボさんも勉強されましたので医学部の学生さん達と方を並べましたね😊
投稿: omoromachi | 2020年6月12日 (金) 20時21分