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2019年6月 5日 (水)

胃酸分泌のメカニズムと潰瘍治療薬

このブログの記事をまとめたホームページを作りました。見て頂くと嬉しいです😃(ニライの夢:https://dreams-nirai.com )。

 

今日のFMレキオは消化性潰瘍について話をしました。このブログでは消化性潰瘍の治療の変遷について書きたいと思います。

歴史上、消化性潰瘍と思われる症状や治療の記載は、ヒポクラテス(Hippocrates:紀元前460年)の時代と言われています。 近代的な治療は1700年代後半からで、1800年代には消化性潰瘍の原因として胃液の研究が進み、塩酸やペプシンなどの過剰によるもの、胃の粘膜の血流障害Th_説、迷走神経や自律神経失調などのストレス説など、現代に医療と結び付く説が学会で議論されるようになりました。

1963年に様々な意見を集約した形で攻撃因子と防御因子の破綻が潰瘍の原因とした説が認められ、現代まで支持されています。消化性潰瘍の原因を天秤にかけた状態でバランスが取れていたら潰瘍にならないが、何らかの原因で攻撃因子側に天秤が振れたときに潰瘍になるというモデルで、解り易いため現在でも説明に利用されています。

 

上の図のうち、潰瘍の治療薬の中心となるのは主に攻撃因子を防ぐことになります。

胃酸過多により胃痛や胸焼けなどの諸症状がおこり、内視鏡的観察では胃炎、潰瘍、逆流性食道炎などと診断されます。

<ここで胃酸の分泌が起こる仕組みについて書いてみます>

胃酸の分泌には「アセチルコリン」「ガストリン」「ヒスタミン」と呼ばれる神経伝達物質が主に関与しています。胃の粘膜組織にはこの神経物質を感じ取れる受容体が存在し、これらが出ると胃酸を分泌させる「プロトンポンプ」に作用して「胃酸の産生」が起こります。 これらの神経伝達物質は単独あるいは関連し合い胃酸の分泌を促進します。

例えば、空腹時に美味しい匂いを嗅ぐと「アセチルコリン」の分泌が起こります。アセチルコリンは胃の蠕動運動も促進しますので、「胃がグ〜」と動き出します(→側の人からも「お腹減ったの」と言われてしまいます😃)。 唾液の分泌も胃酸の分泌も促進されます。 今度は胃に食べ物が入ると、その刺激で胃壁から「ガストリン」が分泌されます。 アセチルコリンやガストリンは更に胃粘膜の細胞に作用して「ヒスタミン」を分泌させます。 

この3種類の神経伝達物質は最終的に胃酸の分泌を起こす「プロトンポンプ」に作用して、胃酸が分泌されるのです。

<次ぎに、胃酸の分泌が起こるメカニズムが判ったはずですので、治療薬の話を続けましょう>

昔は胃酸の産生を直接抑制する薬はなく、潰瘍の治療は酸を中和する制酸剤と胃の動き等を抑える抗コリン剤が中心で、大きな潰瘍に関しては効果が少なく、長期入院や手術が必要でした。

しかし1982年に開発された潰瘍治療薬のヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー:商品名としてはガスターが有名でしょうかが開発され、これはそれまでの薬と比べ画期的な効果をもたらすことになります。

更に最近では、最終的に「プロトンポンプ」が胃酸の産生に関わることより、回りくどいことはせず、直接この「プロトンポンプ」の受容体をブロックしてしまう薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)が開発され、現在では潰瘍や逆流性食道炎の治療薬の中心となっています。

Th__27

この薬が一般的に普及した1980年代後半からは、潰瘍による手術症例は激減し、今では出血、穿孔、狭窄の場合で内視鏡的な治療が効果がないと判断した場合に手術がおこなれています。 私より上の世代(70歳以上)の外科医は私達や更に若い世代よりも何十倍も胃・十二指腸潰瘍の手術を経験されています。 最近では更に胃酸の産生抑制効果の強いPPIが臨床で使われるようになり、大きな潰瘍も外来で治療可能となっています。

更に潰瘍と関係が深いピロリ菌の発見により、除菌療法も新たな治療として加わってきました。私がたかだか30年数年外科をやっているだけで潰瘍の治療も劇的に変化してきています(勿論その他の治療も劇的に変化してきていますが・・)。 医療が今後も進歩することで、様々な治療法が出てきたらいいなと願っています。 それでもやはり医療の中心は人です。 これからも禿げたオヤジ(←私です)はオヤジなりに頑張っていこうと思うのです

ピロリ菌は胃に住み着いて胃粘膜に慢性の炎症を起こすことより、萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃がんなどの様々な病気を引き起こすために、ピロリ菌陽性の場合はまず除菌療法を行い、その他の治療を組み合わせます。

 

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医療」カテゴリの記事

コメント

院長先生
 こんばんは。
こちらもそろそろ梅雨入りしそうな時期となりました。
 
 今日のお話は私にはちょっと難しいですが、
今は胃潰瘍などには良いお薬があるということでしょうか?
私は2回、ピロリ菌の除菌を致しました。
 服用中のお薬の関係で「タケプロン」を服用しております。
夫は若いころ、十二指腸潰瘍でお薬と食事療法で治しました。
食事の支度が大変でしたよ。
 食べ過ぎも要注意ですね!

マコママさん、こんばんは。

沖縄は梅雨入り後、時々は大雨になりましたが、以外と晴れ間の多い時間帯が多い印象です。 関東もそろそろ梅雨入りになるのでしょうか?

胃潰瘍の薬に関しては随分とよくなったと思います。私より10〜20歳年上の外科医は毎日の様に胃潰瘍の手術をしていたと聞いたことがあります。今では胃潰瘍の手術は年に1回あるかないかの確率です。

ご主人も若い自分は相当ストレスがかかっていたのかも知れませんね。 食事に気をつけたことでしょうね。お疲れ様でした。

マコママさんの内服の薬も今日の話題のプロトンポンプ阻害薬の1つですね。 除菌後に胸焼け症状が出る場合もあり、このプロトンポンプ阻害薬は適応があります。また抗凝固薬を飲まれている場合などには、胃が荒れて出血したら止まり難い為に予防的にこの薬を処方する場合もあります。

この時代は食べ過ぎて良いことは余りなさそうですよ。気をつけてゆきましょう。

ハイサイ先生、お疲れ様です(^_^)♪

先週に引き続き胃潰瘍関連の事についてのup有難うございます。
今回は少し難しいお話でしたが、胃酸分泌を起こすプロトンポンプを直接阻害する医薬品の開発とピロリ菌の除菌により昔と比べ胃潰瘍の手術が大幅に減ったという解釈でよろしいのでしょうか。
いずれにしても検査方法や医薬品の開発により患者の負担が少なくなることはとても有難い事です。

さて、本日のオンエアは仕事をしながらの拝聴でしたので時折先生のお話が途切れてしまいましたが、今日はイルカ特集ということで4曲聴かせて頂きました。
・1曲目 [サラダの国から来た娘]
 「サ・サ・サ、サラダ サラダの国から来た娘~♪」。。。。イルカさんの代表曲の1つで
 とても可愛らしい曲ですね。
・2曲目 [海岸物語]
 「別れのテープは切れるものだと何故気づかなかったのでしょうか。。。」
 個人的にこの部分の詩がとても印象的で大好きな曲のひとつです。
・3曲目 [雨の物語]
 梅雨のこの時期にピッタリなイイ曲ですね。先生の弾き語りで優しい歌声を聴かせていた
 だきました。
・4曲目 [あの頃のぼくは]
 この曲はイルカさんのソロデビュー曲でしたよね。この曲を聴くと私自身の青春時代の
 ほろ苦さがよみがえります(^^;(笑)
 それにしても先生は50代半ばからギターを始められたとのこと。そうは思えないほどお
 上手ですね。
 私も元職業柄ギターの事を深く知り、また、弾き語りをするのでわかりますが、
 ギターを弾きながら自分の思うように歌うのは中々難しいことです。
 先生の好奇心と実行力には脱帽です。

人命を預かるお仕事で毎日大変だとは思いますが、また次回のオンエアを楽しみにしておりますので、先生ご自身、お身体をご自愛頂き、来週もまた先生の優しいお声をお聞かせ下さいませ。。。♪

にふぇーでーびる。。。♪


mosaさん、おはようございます。

朝の回診を終わって戻ってきました。
今週もラジオを聴いて頂きありがとうございました。先週に引き続き胃潰瘍について話をしました。 mosaさんが書いてあるように、効果的な薬がない時代は大きな潰瘍は手術で治す時代で、多くの外科医は胃の手術を行っていました(がんではありませんので、リンパ節の郭清などは必要ありませんが・・)。

昨日は「イルカ」さんの曲を選びました。それぞれにmosaさんが解説通りで、私も同じ感じで捉えている曲ですよ。

私は子供の頃から歌は好きでよく歌っていました。中学・高校時代は運動系でした。ただ当時はフォークソング世代の最後で、学校にも多くの生徒がギターを持って来ていましたので、教室で借りて弾いたことはありました。

その後は予備校、医者となって30年近くは全く音楽も聴かない時代でした。ところが50代に入り、ラジオを担当するようになって、音楽を聴き始め、その途中でギターを購入して自宅で弾き語りを練習したのが始まりです。

今では寝る前の私のストレス解消になっています💖

mosaさん、いつも聴いて頂き、ありがとうございます(イッペ〜、ニフェ〜デービル)。

omoromachi先生、ご無沙汰しております

私も若い頃(30代)に潰瘍と診断され、治療を
受けたことがあります。当時は仕事がハードで
夜の飲み会(接待)も多く大変でした。

今では胃酸分泌の最終段階のプロトンポンプを
阻害する画期的な薬が出たのですね。

前回からのイラストのお陰で潰瘍のことが
よく判るようになりました。
先生、素人向けの本でも出して下さい。
とても判りやすくていつも読んでいて
ありがたく思います。

どうかお体をご自愛なされて今後も
ご活躍して下さいね。私が沖縄でしたら
先生の外来を伺いたいぐらいです。

miurayamaさん、こんばんは。

若い頃に潰瘍になったことがあったのですね。30代でしたら、当時の企業戦士は本当にハードに仕事をしていたことだと思います。 夜中や日曜日のゴルフ接待などもあって、今の若いサラリーマンでは想像つかないかも知れませんね。

潰瘍の治療は随分と進歩しました。

このブログではなるべく素人の方に分かる様に書いているのですが、それでも難しい単語なども多く、伝え方に反省点もあります。

本を出しても誰も買ってくれないでしょうから、ブログをせっせと書いて行きたいと思います。 

コメント頂きありがとうございます。

先生、お疲れ様です。
昨日は色々を教えて頂きありがとうございました。
確かに子どもの頃、胃の手術を受けた方は胃潰瘍か胃がんだったのか…と
両親から聞いていた記憶があります。凄く進歩してきたのですね。感謝です。

ピロリ菌がいないね胃だねーと私は良く言われてます。どこかの記事で
omoromachiさんも、そのタイプの人は胃酸過多ですね。と言ってくれたのを
思いだしました。詳しくメカニズムが分かりました。昔、コンビニが無い添加物がない食べ物を食べていた時代の人でも胃潰瘍になったのですね。お酒とかタバコなのかしら?
あと疑問に思っていたのですが、新しい病院へ行くと問診票を書いたり、お医者さんに
どんな病気をしたことありますか?と聞かれたときに、卵巣のう腫です…というとフーンって感じなのに、あと、胃潰瘍ですというと、エッ!それはいつですか?3回も?最後から何年経ってますか?って驚かれて、ササッとカルテに書き込む姿が何度もありました。

由津子さん、こんにちは。

私の一世代前の外科医は胃潰瘍の手術を相当行っていましたが、私達の時代では潰瘍による手術は少なくなり、今の若い外科医は潰瘍による手術は年に1回あるかないかだと思います。それだけ潰瘍の薬は進歩しています。

ピロリ菌の居る胃は萎縮が進みますので胃酸の分泌も低下します。健康は胃は胃酸も沢山出しますので、胃酸の量は増えています。

胃潰瘍はヒポクラテスの時代の記述にもありますので、必ずしも現代人だけではなかったのです。

最後の部分は「卵巣嚢腫」と胃潰瘍の重症度ではなくて、内科や消化器外科に行けば、胃潰瘍の方がみる範囲ですので興味があるだけだと思います。逆に婦人科に行けば卵巣嚢腫の方を色々と聞くと思いますよ(笑)。

そうでしたか(笑)
胃潰瘍は何か特別な病気かと思っていました!

由津子さん、こんばんは。

潰瘍は現代病と思いますが、紀元前の医学書にも今の潰瘍と思われる記述が既にあるのですよ。

当時からストレスも多かったのでしょうね😅

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