世界を夢みて 87: アルファンブラ宮殿の中心
8世紀頃よりスペインを征服して来たイスラム教国も次第に、キリスト教徒の国土回復運動によって最南端に追いつめられてゆきます。 13世紀、イベリア半島に残る最後のイスラム教国となったのが、半島最南部のグラナダ王国でした。 アルハンブラ宮殿は、この王国を興したナスル朝が、1238年から1391年に完成させた宮殿で、イスラム建築の最高傑作として評価されています。
アルハンブラとはスペイン語で「赤い城」ということのようで、赤い血をイメージする戦闘用の城ではないとこの建築を観ると感じられます。壁が赤いとか建築の時昼夜を問わず進めたために灯りのおかけで赤く見えたからなど諸説あるようです。
当時イスラム教徒は追い詰められたことは当然分かっていたはずですし、戦闘の準備ならこの様な装飾豊かな内装を必要としていなかったと思うのです。 この繊細で美しい城の内部はスペインを征服したイスラム王朝が最後に自分達の文化や芸術、建築の素晴らしさをスペインのキリスト教徒のみならずヨーロッパの人々に見せつける為に造ったのではないかと想像さえするのです。
その繊細な内部を見学するにつけ、最後のイスラムの王様は自分達の文化や美しい城を後世に残そうとしたのではないかと考えるのです。だからこそキリスト教軍に包囲された後、戦闘に及ばず無血開城を決心した思うし、明け渡されたキリスト教徒もこの城の美しさを眺めて破壊してはいけないと考えたのではないかと想いを馳せるのです。
アルハンブラ宮殿の中心ナスル宮に入るのは入場時間が指定されていますので、私達は先にヘネラリーフェ離宮を観てから谷をまたぎ、バルタル庭園の中を進み王宮へと向かいました。イスラムの世界らしく、外観はとても質素に出来ています。外壁も茶色の無味乾燥した形です。ところが中に入ると様子は一変します。
王宮に入ると見所満載です。
先ずは有名な、王宮の南側の「天人花の中庭」からカマーレスの塔が水面に映り出され本当に綺麗です。左右対称のイスラム建築で、コマーレスの塔のアーチが美しいです。このアーチひとつひとつに素晴らしいアラベスク模様の彫刻が柱全体を覆い尽くしています。
中に入ると有名な「ライオンの間」があります。ライオンの間のは124本の列柱が整然と並んでいます。入り口から観るライオンの間も素敵です。下部の部分の柱はスッキリしていますが上部のアーチの部分は緻密で繊細な漆喰細工が施されています。森をイメージした作りとなっています。
ここから直ぐに、これもアルハンブラ宮殿で有名な「ライオンの中庭」があります。ここから先は王のハーレムで当時は王様以外の男性は入れない場所でした。
ハーレムにいた女性達の場所だった為でしょうか、このライオンたちの顔がみな優しいのです。 12頭のライオンが1時間おきに1頭ずつが水を出して時間を知らせる水時計として設計されていたそうです。
ライオンの間の北側奥には二姉妹の間があります。床の敷石に使われた2枚の大きな大理石からこの名前がついたとされますが、圧巻は天井に施されたモカベラという鍾乳石が無数に垂れ下がっているような細かな装飾の円天井です。まるでレースのような緻密な美しさがあります。かつてはハーレムの女性達と王だけが観ることが出来た空間です。
細部にまで細かな装飾がなされています。拡大して並べてみました。細かすぎて眼がクラクラしそうになります。この天井は7種類のムカルナス(飾りを模った部品)をなんと5000個も組み合わせて造られているそうです。
二姉妹の間の奥にもリンダラハの望楼があります。普通では見えないのですが、奥を覗き込むようにすると、天井部分にアルハンブラとしては珍しい、ステンドグラスがあります。イスラム様式の模様が色鮮やかに描かれています。 この広いアルハンブラは至るとことにイスラムの美が隠されていて、一瞬でも気が抜けません
今度は「大使の間」の天井です。これは無数の寄木細工を組み合わせて造っています。下から見上げると満点の星空のようです。かつての砂漠の民が見上げた星空だったのかも知れません。部屋の側面のアラベスク模様の彫刻も繊細で、上部の窓も本当に細かい彫刻が施されています。
タイルの装飾や天井、その他あまりにも、イスラム彫刻の凄いのがありすぎて、ここまで来るとありがたみも分からなくなるほどです。 何とも贅沢な空間なのだろうかと改めて思います。
国土回復運動によりイスラム支配下であったイベリア半島も、この王朝を残すのみとなりました。最後のナスル王朝の国王も、最後のイスラムの高度の文化をここに残したくて、これ程の宮殿を築いたのでしょうか? イスラム建築の最高傑作として後世に残された人類の宝物は繁栄と衰退、哀愁を漂わせたアルハンブラ宮殿でした。
アルハンブラの中心にある中で異質な建物があります。壁も直線的で門構えも全くイスラム的ではありません。そこが「カルロス5世宮殿」です。それもそのはずで16世紀になってキリスト教とのカルロス5世がイスラム建築に負けない宮殿づくりを命じて造られたイタリア・ルネサンス様式の宮殿で建設途中で王が亡くなったため未完のままになったとのこと。規模を小さくしたようなコロッセオをイメージしたかのような作りとなっています。私的にはこれが出来たということはこれまであったアルハンブラのイスラム建築を壊して造ったとのではないかと気になってしまう異質な空間でした。
最後は「貴婦人の塔」に向かう回廊から、世界遺産に同時に登録されているアルバイシン地区の街並みが綺麗に見えました。今回の旅行では観ることが出来ませんでしたが、2回目の旅行時は街を散策出来、ここもまたイスラムの香りが漂う街並みでした。
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omoromachi様、おはようございます
正月以来ご無沙汰しております。
スペイン旅行のアドバイスありがとうございました。
アルファンブラ宮殿が何故イスラム建築の最高峰
と言われているのかが分かりました。
写真を部分的に拡大して説明して貰うことで
この細かな彫刻群の凄さを感じました
このような素晴らしい文化遺産が無血開城の
お陰だというのも歴史を知らないと分からないです
私達も今度はマドリッド・バルセロナだけでなく
スペイン南部を旅したくなりました。
これからも宜しくお願いします
投稿: SmidareQueen | 2018年7月16日 (月) 10時45分
院長先生
こんにちは。
こちらは御地より気温が高く、もううんざりしております。
被災地の方々とボランティアの方々はこの暑さで大変だと思います。
くれぐれも熱中症に気をつけて頂きたいですね。
アルハンブラ宮殿の「二姉妹の間」鍾乳石の彫刻が見事でしたね!
お写真を拝見させて頂き、思い出しておりますよ。
美しい所でした!
続きを楽しみにしております。
投稿: マコママ | 2018年7月16日 (月) 14時02分
SmidareQueenさん、こんばんは。
SmidareQueenがスペインを訪ねて半年経つのでしたね。寒くて時間もなかったのでマドリッド・バルセロナで良かったと思いますよ。
スペイン南部はイスラムの影響を受けていますし、北部のバスク地方はまた違う文化を持っていますので、いつか時間が出来たときに再度スペインを訪れて下さいね。私は3回行きましたが、またいってみたい程です。
アルファンブラ宮殿はそこに訪ねて、写真では出しにくい繊細な彫刻をご覧になられると、これがイスラムの最高芸術作品であることも頷けます。 旅をする場合、行き当たりばったりも楽しいのですが、その国の歴史や文化を知って訪ねると色々な発見が高まります。
また何かありましたら、ブログのコメント欄に頂ければ、旅のアドバイスをしますよ。こちらこそ、これからも宜しくお願い申し上げます。
投稿: omoromachi | 2018年7月16日 (月) 17時26分
マコママさん、こんばんは。
この時期、沖縄は本土と比べて涼しいですよ。知人が昨日東京から帰って来て、沖縄が過ごしやすいと言っていましたので、そのようだと思います。
このような暑い中での復旧作業は本当に大変だと思います。熱中症にならないように対策を講じて欲しいです。
マコママさんも以前訪ねていますので、私の写真をみて思い返したことでしょう。「二姉妹の間」鍾乳石の彫刻は本当に素晴らしいです。 寄木細工を組み合わせて造った「大使の間」も落ち着いていて、とても素敵で私のお気に入りの場所でした。
まだ高い気温が続くようですので、こまめに水分をとってお過ごし下さいね。いつもありがとうございます。
投稿: omoromachi | 2018年7月16日 (月) 17時33分
おはようございます、先生
宮殿内、天井の装飾…ためいきが出ます。
隙のない施しようは、
どこか曼荼羅のようにも見え、
まるで宇宙のようです。
投稿: サウスジャンプ | 2018年7月18日 (水) 08時12分
サウスジャンプさん、こんばんは。
アルファンブラ宮殿はその内部を見ないとこの宮殿の素晴らしさが分かりません。 あまりにも繊細に密に彫られた彫刻は幾何学的で西洋にないイスラムの美しさを見せてくれます。
大使の間はサウスジャンプさんが指摘しているように「曼荼羅」の様に思えますね。 寄木細工で造った満点の星空。 その中心に立って天井を見上げると夜空に吸い込まれる気がしました。 本当に「宇宙」のようでした
投稿: omoromachi | 2018年7月18日 (水) 19時23分
先生、こんばんは。
天人花の中庭、シンメトリーの建物に水面に塔が映り込み、とても美しいですね


アーチにレースのような繊細な彫刻が施され、整然と柱が並ぶ回廊も素敵
犬のように優しい顔をしたライオン達はハーレムの女性達を守っていたのでしょうか。
至る所に意匠を凝らした浪漫溢れる宮殿ですね
投稿: sharon | 2018年7月25日 (水) 18時47分
sharonさん、こんばんは。
sharonさんの表現力凄いです。本当にそのような光景でした。
sharonさんもライオンの間のライオンたちの顔が優しいことに気がついたのですね。可愛らしい顔をしたライオンたちでハーレムの女性達の為に造られたことが分かります。
内部の装飾の繊細さはその当時の世界最高レベルだったのではないでしょうか? 本当に緻密な内装でした。
投稿: omoromachi | 2018年7月25日 (水) 20時08分