胃内視鏡検査の進歩
今週のFM「いきいきタイム」は胃癌について話をしました。診断や治療における内視鏡の進歩には目を見張ることが多いです。 私が外科医としてやって来た30年あまりでも随分と進歩してきた実感があります。
ブログでは胃内視鏡検査の歴史と変遷について書いたみたいと思います。
つい近年までは胃癌は早期で見つかることはなく、手術や死んだ後の剖検でその病巣をみることしか手段はありませんでした。その後レントゲンが発見され、バリウムによる胃透視にて間接的に病気を見つけ出すことが出来るようになりました。
はやり胃の病変を直接みてみたいと先人達は努力をしてきました。1860年代にドイツにて棒の先にレンズがあり、根元にカメラを取り付けたような装置が出来、最初は棒のように硬く曲がらない硬性胃鏡、その後この棒の部分が少し柔らかくなった(今の内視鏡と比べると太くて硬いです)軟性胃鏡が発明されましたが、おそらくサーカスかなどで観るような硬い棒を飲み込むような芸当が出来なとやれなかったと思われます(左のイラストはウッキペリアからとりました、著者権は切れています。こんな胃カメラなら絶対受けませんね)。
1950年代に初めていわゆる「胃カメラ」が日本で開発されます。その当時の状況を昔、研究に携わった先生から聴いたことがありましたが、失敗の連続だったそうです。その中で胃の中が写った写真を見たときには衝撃的だったと話されていました。
基本は軟性胃鏡と同じ感じです。カメラの先にレンズがあり、根元にカメラの本体があります。ただカメラ本体と入っても、のぞき窓などありません。 胃の中に入っていると思われたら、レントゲンをみたりして、だいたいこの辺と考えて、カメラのシャッターを押すわけです。何枚か写真を撮り終えて、現像したら真っ暗で何も写っていなかったなんてことも何度もあったそうです。
その後アメリカでファイバースコープが開発され、1970年代から胃カメラにも応用されてゆきます。 ファイバースコープのため、カメラの先端から光をだしたレンズから拾った画像を手前の1cm程度の窓からのぞき込むことが出来る様になりました。 私も初めてカメラをやったことはこのタイプでした。 当然窓は1つですので1人しかみれませんし、写真を撮って現像ですので、患者さんにも後日の説明になる時代でした。最初は白黒で後にカラーだったような気がしますが記憶が定かではありません
その後1980年代から、モニターに映し出せるビデオスコープが開発され、現在のようにモニターで映し出されるため、周りの医療者含めても本人もみることが可能となりました。今やフルカラーからハイビジョン撮影、色々な色調を強調できたり、微小な病変を拡大出来たりするカメラが出現し診断技術の向上により早期発見や内視鏡的処置手術の拡大に繋がっています。
画像処理の進歩と共にファイバーそのものを細くする技術も格段に進歩しました。 細くなった利点はやはり大きいです。 私が始めた1980年代でもカメラの直径が15mm程度が細いと感じましたが、今では色々な処置が出来る普通のカメラでも9mm程度の太さになっています。更に細径ファイバーと呼ばれる直径が5〜6mm前後のカメラが普及型として出回ってきました。
細くなった利点は、口からの挿入でも太いより細い方がより楽です。それでも口からのカメラは一番反射が強いベロ(舌)を押さえ込みながら入るので、麻酔をしてもゲロゲロと苦しいことも多いのです。 細径カメラの一番の利点は、この大きさなら多くの方が鼻の穴から挿入可能となった点です。 それによって嘔吐反射が減り、お喋りをしながらのカメラも可能となったのです。 更に鎮静剤を併用することで、眠っている間に終わったと感じることも多くなりました。
まだまだ、早期発見に勝る治療はありません。胃カメラが苦しくて2度と受けたくないより、楽に挿入できて、気楽に胃カメラを受ける方が早期発見にとって重要です。
胃カメラの進歩は受ける方の安楽と、そして診断や治療をより高度に行えるようにと日々進歩しているのです。
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