萎縮性胃炎は胃が小さくなるわけではありません
タイトルにも書いたように、長年のピロリ菌による胃の変化の中で、萎縮性胃炎という状態があります。 これを患者さんに説明すると、多くの方が胃が伸びずに小さくなると勘違いしていることが分かります。そのことについて少し触れたいと思います。
私達の胃壁の構造は内腔から見ると、粘膜(粘膜下層)、筋層、漿膜(外膜)となっています。胃液やガストリン、内因子などはその粘膜で作られ、自らの胃壁を守るために粘液を産生して胃酸からの攻撃を防いで、自分の胃の粘膜が消化されないようになっています(この均衡が破綻すると潰瘍になったりします)。
胃炎は粘膜の炎症ですが、急性と慢性に分けられ、アルコールの多飲や薬物などで急激に粘膜が炎症を起こす場合が急性胃炎と言われ、それ以外の胃炎は殆ど慢性の胃炎の状態です。
更に慢性胃炎のうち粘膜が一部えぐられたびらんを伴うびらん性胃炎と萎縮性胃炎に別れます。特殊な胃炎を除いて、慢性胃炎と萎縮性胃炎はほぼ同じと考えてよいと思われます。
この萎縮性胃炎はヘリコバクタ・ピロリ菌の慢性の感染症に因って引き起こされます。正常な粘膜は胃酸を始め多くの胃液を分泌する組織で、丈の高い絨毛のようなヒダで出来ています。ピロリ菌が長年感染して炎症を起こすと、この粘膜は萎縮して厚みが失われてしまいます。
粘膜の厚さが萎縮して薄くなる状態を「萎縮性胃炎」と呼んでいます。決して胃の全体的な大きさが萎縮して小さくなるわけではありません。内視鏡で観察するとピンク状の粘膜が萎縮のため白っぽく見えて、血管もすけて見えやすくなるため、見た目で萎縮性胃炎と診断します。
内視鏡では見た目の判断ですので、初期の場合は萎縮がわかり難い場合もあります。必ずしも正確に萎縮を判断出来ない場合もあり、調べてもピロリ菌はいない場合もあります。
慢性の炎症はがんの発生の素地にもなりますので、医学的にも胃癌との関連の研究が多く発表されていて、胃癌の予防にピロリ菌の駆除(除菌)が行われる機会も増えているのです。
ピロリ菌のいない胃で胃癌が発生する頻度は極まれです。除菌を成功しても、萎縮が元の戻る訳ではありませんので、除菌の後に内視鏡を行っても「萎縮性胃炎」と診断されることが殆どです。しかし萎縮がこれ以上進行しませんので、胃癌の発生頻度も減少します。
さあ明日から12月です。暴飲暴食の胃には厳しい季節がやって来ますが、自分の胃もいたわって下さいね。
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コメント
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いつもお世話になっています。
今日も興味深い記事をありがとうございます。
胃酸が多く出てしまうタイプの人は、ピロリ菌が少なく、
よって、胃癌になる可能性が低いということでしょうか?
かつて、内科の先生が、そうおしゃってたように記憶しています。
そんな簡単な話ではないのかしら?
投稿: 由津子 | 2016年12月 1日 (木) 12時58分
由津子さん、こんばんは。
御質問に関しては、結論は同じことを言っているのかも知れませんが・・・ピロリ菌は主に免疫が未発達の小児期に飲み水などから感染してしまうケースが多く、長年かけて胃壁に炎症を繰り返す結果、胃の粘膜が荒廃し薄くなることで、萎縮性胃炎という状態になります。
胃酸は粘膜から分泌されますので、萎縮が進むと胃酸の分泌は低下します。そのことよりピロリ菌に感染していない場合は、一般的に胃酸分泌も多い(正常)と言うことになります。
この様なことから、「ピロリ菌が感染していない=胃酸が多い→萎縮性胃炎、胃癌になる確率は低いと」・・・その内科の先生は言いたかったのではないでしょうか?
ピロリ菌のいない胃は胃癌になる確率は少ないです。全部ではありませんが・・・
投稿: omoromachi | 2016年12月 1日 (木) 19時33分