挫滅(クラッシュ)症候群
きょうのFM レキオは地震や災害について話をしました。同時に広域で起こる災害に対しては、救急車や病院に電話してもつながらことも多く、自分自身でやれる範囲で周りと助け合いながらその場を乗り切るしか方法はない場合もあります。
地震等で倒壊した建物の下敷きになって身動きがとてなくても、重要臓器が守られていれば会話もでき、比較的容体が安定しているとみえる場合があります。 しかし挟まった体を引きずり出した後に急に病態が悪化し、心停止になることもあります。この様な病態をクラッシュシンドローム(挫滅症候群)と呼んでいます。救急や血管外科をやっている医師にはよく知られた病態したが、日本では20年前の阪神淡路大震災で多数の報告がなされ、医療機関や一般人にも知れ渡るようになりました。
地震で倒壊した建物で腰や下肢や腕が挟まれ、動脈も静脈にも血液が流れなくなったとします。 この状態が続くと筋肉の細胞膜が破壊され、血液の途絶えた組織の中には電解質のカリウムや乳酸やミオグロビンなどの有害物質が蓄積して次第に高濃度となってしまいます。
この状況下で体を引きずり出すと、挟まった部位の血流が再開します。それと同時に貯まっていた有害物質も全身に回り出します。 血液中のカリウムの濃度が急に高くなると、心臓が悪くない方でも不整脈を起こしたり、心停止になる場合もあります。その場で助かったとしても、高濃度のミオグロビンなどは腎臓を悪化させ、後に腎不全になることもあります。通常なら緊急透析で乗り切ることも可能ですが、地震で病院も破壊されている場合もあり救命することも困難な事例もあるのです。
おおよそ挟まれて2時間以上たった場合は気をつけた方がいいと思います。 圧迫の強さにもよりますので、筋肉の痛みが強い、その部位がしびれたり,運動麻痺や知覚麻痺、全身の脱力感が著明、尿が赤かったり茶色の場合は挫滅症候群を考えて救急隊を待つ方がよいのかも知れません。
しかし、地震などは広域で同時に起こるので、救急車や病院の対応には限界があるはずです。 周りにいる人が助け出すことが第1優先になります。 その場合、引きずり出す前に充分に水分(水やお茶など、カリウムが入っているジュースや果物は避けた方がいいでしょう)を補給させ、可能なら引きずり出した下肢の太ももの部分をヒモなどで強く縛って運び出すことを考えて欲しいと思います・・・・医療者でも難しい判断になる場合も多いですので一般の方の判断はより難しいと思います。 挫滅症候群という病態があることは知って欲しいと思います。
地震列島の日本です、もしものことが想定外では済まないことも多いと思います。 身近にある危険に対応出来るように気を配っておかねばなりませんね。 地震・災害は忘れた頃にやってくるのです。
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クラッシュ症候群初めて知りました。素人は一刻も早く血を通わせないと!と思っちゃいます。いつもためになる話有難うございます。いま話題になってる群馬医大の内視鏡手術、先生もやるんですか?モニター画面をみながらのあんな長い道具を駆使し
命と戦ってる姿には、頭がさがるおもいです。ほんとうに次元のひくい質問で恐縮ですが、もし何時間にもおよぶ手術のとき、先生が気分がわるくなった時や、トイレの
ときは、どうするんですか?私の長年の疑問です。
投稿: フーミン | 2015年3月25日 (水) 22時14分
フーミンさん、こんばんは。
阪神淡路の地震の時にこの病態の方が372名報告されるようになり、一般の臨床医でも知るようになりました。基本的には一刻も早く助け出すのが良いのですが、ある程度時間が経っている場合はこの病態を気にかける必要がありますし、可能なら緊急透析が出来る病院に搬送した方がよいと考えます。
私の方は群馬医大のような肝臓を大きく切る手術は腹腔鏡では行っていません(部分切除の場合は行うことがあります)。 腹腔鏡下の手術は胆石を始め胃、大腸、脾臓、副腎などの癌や良性腫瘍で、症例を選んで行っています。 手術で重要なのは出血をさせず安全に行えること、何かあってもリカバリーが出来ることです。 現在は傷の小さい手術がもてはやされていますが、傷の小ささより安全の方が第1優先となると考えています。
手術中は緊張状態(交感神経が優位)の状態となりますので、5〜6時間の手術ではトイレにも行きませんし、食事も水分も取りません。食道癌や膵癌の手術で10時間近くに及ぶ時がありますが、この場合も休むにしても途中で1回10分程度トイレと水分、糖分と取るぐらいで平気です。
若い時と比べて体力は落ちているのでしょうが、今の年齢でも手術時の疲れは同じ程度です。若い時は皮膚を切る時から緊張状態が最後まで続きますが、年を取ると手術の強弱(重要な部分に取りかかる時のみ緊張状態)が分かるので余り疲れないのです。
長年の疑問が少し取れましたでしょうか
投稿: omoromachi | 2015年3月26日 (木) 00時14分
はい 知っていました
やはりそれは 阪神淡路大震災の時にだったと思います
そういう場合は気をつけないといけないなとずっと思っていましたが
この記事を読んで そうか救急の人に助けられるとは限らないんだ と思い
じゃあどうすればいいのかっていうのを 読んでようやく知ることができました
水分を摂らせるっていうのも もの凄く納得です
なんとなく知ってるだけではダメですね
危険に対応できるように・・・・その通りですね
ありがとうございます
投稿: 奈月 | 2015年3月26日 (木) 01時01分
奈月さん、おはようございます。
この病態知っていたのですね、凄いです。
広域災害に対しては、通常の状況と全く違うことが予想されてます。 病院さえも倒壊の危険性や電気水道などのインフラそれに道路などの交通網も遮断されている場合もあります。
日本で地震が起こる危険性が高まっています。その時何が自分で出来るか、日頃から自分だけでなく家族とも相談し、避難場所に集合し、お互いを捜しに戻らないなどルールを決めていた方がよいと思いますね。
地震などの時は周りにいる人々を共同してやらなければいけなくなります。そのためにもある程度知識を持っていた方がよいかと思います。
投稿: omoromachi | 2015年3月26日 (木) 08時32分
こんばんは

クラッシュ症候群、
テレビで以前紹介されていあ事もあって、
薄~く記憶には残ってはいましたが、
なぜそうなるのか、
実際その場にいた時の対応などは全くわかって
いませんでした。
先生の解説はいつもながらわかりやすいですね!
緊急事態に遭遇した時に最良の
対応ができるよう、しっかり記憶に留めたいと思います。
災害は決して他人事ではない・・・という事ですね。
投稿: monna | 2015年3月26日 (木) 23時19分
monnaさん、こんばんは。
クラッシュ症候群、覚えていた名前だったのでしょうか。
このような現場に遭遇する機会は少ない(ない方が良いのですが・・)でしょうが、時々思い出すだけでもいいのかと思います。
地震国の日本に住んでいる以上いつかは遭遇すると思います。広範囲であればあるほど、インフラも破壊され病院も機能を失うかも知れません。 そうなると現場にいる一般の方が助け合って助け出さなければならないと考えます。
難しいことは分からなくても、想定外ではなくて想定内で対応出来るように色々な知識は身につけておきたいですね。
投稿: omoromachi | 2015年3月26日 (木) 23時47分
omoromachi 様
おはようございます。
クラッシュシンドロームという症状を
初めて知りました。災害でそのような
状況下にならないように願います。
災害にあったことはありませんが、
緊急時をときどき、そのことについて
考えて過ごしていきたいと思います。
投稿: nadoyama | 2015年3月27日 (金) 07時25分
nadoyamaさん、おはようございます。
クラッシュ症候群は20年前の阪神淡路大震災までは医師の間でも余り認識されていない病態でした。その地震で倒壊した建物から救い出された方々にクラシュ症候群の患者さんが372名存在したことが後の解析で判るようになっていて、この数からこの病気の存在がクローズアップされました。
地震は沖縄でも起こりますし、津波があれば低い土地も多いので心配です。特に子供達を預かる身としてはいつでも避難経路や学校での対応の訓練を行って欲しいと思います。
投稿: omoromachi | 2015年3月27日 (金) 08時33分