ヘリコバクター・ピロリ感染症
今日のFMレキオは先週に引き続き、胃や十二指腸潰瘍について話をしました。 その中から今回はピロリ菌について書いてみたいと思います。
ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori) は最近有名ですので多くの方が知っている菌かも知れません。
この菌は胃潰瘍、MALTリンパ腫、胃癌の発生に関わっていると注目されています。(ピロリ菌関連の病気については以前ここに記していますhttp://omoromachi.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-c58a.html )
この菌の名前は、形が螺旋(らせん:ギリシャ語でhelico)状のシッポを持った菌(バクテリアbacteria)で、胃の出口の部分(幽門:Pylorus)から発見されたため、幽門に住む螺旋菌ということでヘリコバクター・ピロリ菌と呼ばれるようになったいます。 同じ名前で、皆様もよくご存じの、空を飛んでいるヘリコプター(英;helicopter)も螺旋(helico)状の翼(pteron)を持っているからネーミングされています。
胃液の主成分の塩酸は、強力な酸で殆どのものを消化してしまいます。 肉も野菜も胃液(塩酸)の中でどろどろに溶けます。 胃の内面を覆っている部分は粘膜と呼ばれ、粘液を出して粘膜細胞の上を絨毯のように覆って、この塩酸から自分の胃が溶かされないように保護しています。
ピロリ菌の発見が遅れたのは、胃の中は強力な塩酸のため、わざわざ住みつく菌はいないとの先入観があったからと言われています。 ピロリ菌は私達が考えるよりもしたたかなのです。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を使って、アルカリ性のアンモニアを作り、自分の周りを固めて胃酸を中和しながら、胃酸に曝されないように生きることが出来るのです。
ピロリ菌は何らかの原因で口から入って来て、胃粘膜の壁に半分埋まるような感じで住み家を広げて行きます。 ピロリ菌はアンモニアや色々な酵素を出すため、胃の粘膜は慢性の炎症を起こしてきます。 炎症が繰り返し起きた粘膜は次第に厚みを失って変性してしまいます。 粘膜が薄くなった状態が萎縮性胃炎と言われています。 萎縮と聞くと胃が小さくなったと勘違いしてしまいそうですが、胃の全体的な大きさではなくて、胃の内面を覆う粘膜が炎症のため薄くなったことを萎縮性胃炎と言っています。 胃潰瘍や胃癌の発生母地になります。
特殊な能力を有するピロリ菌ですが、やはり細菌ですので、抗生物質で死滅可能です。 日本では殆どの場合、抗生剤の組み合わせの順序も決まっています。
1回目の抗生剤の組み合わせ(1次除菌)でピロリ菌が消失する率は60〜70%です。それで除菌出来ない場合2次除菌薬を飲むとその95%が消失しますので、3次除菌まで進む方は僅かです。
この様に段階を踏んで投与するのは、抗生剤が効きにくくなる耐性菌を増やさないためです。日本人の多くの方がピロリ菌を持っています。除菌するかどうかは主治医と相談して決めて下さいね。
(平成26年6月4日のFMレキオいきいきタイムはこちらから視聴出来ますhttp://www.stickam.jp/video/182320848 )
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omoromachi様
ほとんどの人にいるとは初めて
知りました。自分にいないだろう,
関係ないだろうと読み進めていたら
自分にもいるのだと知り 驚きました。
除菌したとしても,感染して簡単に
うつってしまいそうに読み取りました。
普通,治療した方がいいのでしょうか?
一般論として 教えていただけませんでしょうか?
投稿: nadoyama | 2014年6月 4日 (水) 20時55分
こんばんは。
いつもためになるお話、ありがとうございます。
義母がやはりこのピロリ菌が見つかり仰るとおりの除菌で駆除できました。
義母を診てくださったドクターも大丈夫退治できますよ~って
仰ってくれたので安心して治療しました。
なんか、昔見た映画で「ミクロ決死圏」を思い出しました。
人間の体の神秘性は凄いですね。
投稿: EOSのパパ | 2014年6月 4日 (水) 21時05分
nadoyamaさん、こんばんは。
年齢と共にピロリ菌の保菌率は低下していますが、日本人の50歳以上の方では70%程度がピロリ菌がいます。
年齢と共に低下しているのは、上・下水道管理が行き届いた衛生環境のためと言われています。 以前は飲み水の中のピロリ菌で感染、それも幼少時期に感染を起こることが殆どだと言われています。 お母さんなどが離乳食事に口を介して子供に伝染することが多いようです。
免疫力が確立した大人では感染は少ないと言われています。 ですので除菌した後に再感染の可能性は少ないと言われています。
ピロリ菌の慢性感染により、胃の粘膜の萎縮が起こりこれが更に時間をかけて癌化を起こすと言われています。 感染者の方の癌化の確立は一年で0.4%程度です。 これが多いか少ないかは議論が分かれるところですが、決して少ない数字ではありません。
除菌は抗生剤を使用しますので、やはり僅かながら副作用もあります。薬のアレルギー等がなければ、私は除菌を勧めます。
長々となりましたが、私の場合もピロリ菌がいて、一次除菌では消滅せず、二次除菌を行って消失しました。
投稿: omoromachi | 2014年6月 5日 (木) 00時20分
EOSのパパさん、こんばんは。
色々なデーターが出る中で、除菌を勧める機会が増えました。 ピロリ菌でもタイプの違いがあり、それにより萎縮の進み方、癌化率も変化します。 一般的には欧米人のピロリ菌は癌化しにくく、日本人の方は癌化しやすいタイプが多いです。
ミクロの決死隊、私も人間の身体に興味を持った映画でした。 医師をしていると、本当に人間の身体は良くできていると思いますし、無神論者の私でも神様にしかつくれないとしか考えられない素晴らしい生き物です。
人間に、生命に、自然に・・・全てのものに乾杯です
投稿: omoromachi | 2014年6月 5日 (木) 00時28分
本当にこのサイトは役に立ちます。
私は無いらしいのですが、
夫はピロリ菌は大丈夫なのか、
心配になってきたので
検査を勧めたいと思います。
2014年5月14日 (水)の水分量の先生の話も、

そうはいっても私はお茶も飲んでいるし、大丈夫!
と自負していましたところ、
先日精巧な体重計で測ったところ、
水分不足で干からびているという事が判明
猛省しました。
これから暑くなるので
水分補給に気を付けます
投稿: monna | 2014年6月 5日 (木) 20時20分
monnaさん、こんばんは。
もしもこのブログが役立っているのなら嬉しいです
ピロリ菌感染者は日本人の中年以降は非常に多いのですが、ではその全てを除菌すべきかはまだ賛否両論があります。
しかし、次第にWHOもピロリ菌と胃癌の関連も認めていますし、除菌療法も保険適応となっています。
確率の問題もありますが、特定された胃癌の危険因子を取り除く意味では除菌療法は充分に有効な手段だと思います。
今はピロリ菌の検査も胃カメラで細胞をとって調べる方法以外に、採血や尿で分かる抗体検査や尿素呼気試験があります。 抗体検査はピロリ菌にかかったことがある場合分かりますが、除菌後に菌がいなくなってもしばらく抗体は残ります。
呼気尿素試験は空腹で試験薬を飲んでから20分ほど置いてから再び呼気を採取します。 息を吐いたのを採るだけですので体への負担がなく、30分ほどで終了する簡単な検査で、ピロリ菌の有無の判定、特に除菌治療をしたあとに確実に除菌できたかの判定によく使われる検査法です。
ご主人の検査をどのようにするのかは近くの病院で相談されたらよいかと思います。電話で尿素呼気試験をやっているかどうかを確認してからいった方がよいかもです
投稿: omoromachi | 2014年6月 5日 (木) 21時17分
丸に橘です。
もしかしたら自分にもいるかと思うと、いやですね。それでいて、わざわざそのために病院に行くのも気恥ずかしくて。二律背反です。何かのついでに、、、と思っても、その「何か」がないものだから、余計に。
そういう検診があるといいですよね。
投稿: 丸に橘 | 2014年6月 5日 (木) 21時59分
丸に橘さん、わかるような気がします。
やはり何も症状がないのに病院には行きたくないものだと思います。
基本的には人間ドックや職場の検診などでは胃カメラかバリウムの検査が含まれているか、もっと簡易のものにと分かれることが多いようです。後者になると消化管の検査などがないときもあります。
若年者で胃の検査などを受けたことがない方の場合や内視鏡検査も受けたくない人の場合は、ABC検診といってピロリ菌の有無と萎縮の有無を血液検査で調べて、胃癌のリスクを判定する方法もあります。
ABC検診は有効と思いますが、若い女性などでまれに発症する胃の未分化癌などは検出されませんので、やはり胃の直接的な画像診断が必要かも知れません。
ネットでABC検診などで調べてみて下さい。沢山情報があると思いますよ。
投稿: omoromachi | 2014年6月 5日 (木) 23時47分